カイシャ・組織
「わたしたちは必要とされていない?」──組織改革への反発。オルビスHR部長は社員にどう応えたのか
組織改革に向けて、熱意を持って取り組み始めた人は多いでしょう。
しかし、「〇〇をすれば、必ず組織がよくなる」といった特効薬はありません。新しい取り組みをすればするほど、社員からの反発にあい、打ちのめされてしまうなんてことも。
ポーラからオルビスに出向し、未経験のHR部門から組織改革を進めた岡田悠希さんも、その1人。オルビスでは2年半かけて、安定志向な組織から、新しいチャレンジを社員が提案する「未来志向」の組織への大転換を図ったそう。長年培われてきた会社の風土をいかに変えたのでしょうか。
組織改革の現場を多く見てきた、サイボウズチームワーク総研コンサルタントの新島泰久也が聞いてみました。
オープンマインドで未来志向な組織を目指し、7つのマネジャースタイルを制定
新島泰久也
岡田さんはポーラからオルビスに出向するまで、HRは未経験だったそうですね。
岡田悠希
はい、元々はポーラの事業部門でチームビルディングの施策や戦略を担当していました。その中で、人の成長や育成、組織開発にかかわるHRへの興味が湧いてきて。
自分自身のキャリアを広げるためにもHRにチャレンジしたいと手を挙げた際、オルビスでチャレンジする機会をもらえたんです。
自分自身のキャリアを広げるためにもHRにチャレンジしたいと手を挙げた際、オルビスでチャレンジする機会をもらえたんです。
新島泰久也
同じグループの企業とはいえ、オルビスの外から来た社員、しかも、HR部門未経験で組織改革に取り組むのはとても大変だったと思います。
そもそも、オルビスはなぜ組織改革に着手したのでしょうか?
そもそも、オルビスはなぜ組織改革に着手したのでしょうか?
岡田悠希
自然と新しいチャレンジが生まれるような「オープンマインドで未来志向の組織」になるためですね。
わたしが出向した2018年当時、オルビスは長い間売上が伸び悩んでいました。そこで、同年代表に就任した小林の元、第二創業期としてリスタートするにあたって、それまでの組織のあり方を変える必要があったんです。
わたしが出向した2018年当時、オルビスは長い間売上が伸び悩んでいました。そこで、同年代表に就任した小林の元、第二創業期としてリスタートするにあたって、それまでの組織のあり方を変える必要があったんです。
新島泰久也
それまでの組織のあり方?
岡田悠希
はい。オルビスは1984年の創業時からシンプルなスキンケアを提案しており、バブル崩壊後に業績がぐんと伸びました。
その後、2000年代前半ごろまでは、事業計画通りに動けば、会社は成長していきました。だから、決まった業務を大量にこなすことが求められていたんです。
そうなると必然的に、「社員がきちんと働いているか」を管理する組織になる。それが行き過ぎて、効率優先の縦割主義や他部署に対しての無関心が広がりつつありました。
その後、2000年代前半ごろまでは、事業計画通りに動けば、会社は成長していきました。だから、決まった業務を大量にこなすことが求められていたんです。
そうなると必然的に、「社員がきちんと働いているか」を管理する組織になる。それが行き過ぎて、効率優先の縦割主義や他部署に対しての無関心が広がりつつありました。
新島泰久也
決まった業務をこなす組織から、新しいチャレンジが生まれる組織に変える必要があったのですね。
岡田悠希
はい。そこでオープンマインドで未来志向の風土へと変えるために、全社員へ求める行動指針として「オルビスマネジャースタイル」をつくりました。
新島泰久也
「意識してほしくない行動」まで掲げるのは、めずらしいですね。
岡田悠希
推奨されないことも明確にすれば、現状を知り、行動をアップデートできると思ったんです。
この行動指針を浸透させるために、さまざまな取り組みをしました。
この行動指針を浸透させるために、さまざまな取り組みをしました。
意図とは違う伝わり方になり、社員の不安や困惑を招いたことも
新島泰久也
サイボウズでは、離職率が高かった2005年ごろから組織改革を進めました。ただその過程では、新しい組織文化が合わず、反発の声もあって。
オルビスでは新しい取り組みに対して、反発の声はなかったのでしょうか?
オルビスでは新しい取り組みに対して、反発の声はなかったのでしょうか?
岡田悠希
ありましたね。2019年末までは違う道を選択したマネジャー層もいますし、部署異動やキャリアチェンジを申し出るメンバーの姿も見ました。
その時、2つの感情があって。1つは改革を進める上でともなう痛みだから、受容するしかないというあきらめにも似た覚悟。
もう1つは、「本当にこれで大丈夫なのだろうか?」という不安でした。
その時、2つの感情があって。1つは改革を進める上でともなう痛みだから、受容するしかないというあきらめにも似た覚悟。
もう1つは、「本当にこれで大丈夫なのだろうか?」という不安でした。
新島泰久也
頭では受け入れないといけないと理解しつつも、不安は拭えないですよね。
岡田悠希
はい。わたしたちは強いメッセージを打ち出して組織の指針や制度を変えていきました。一方で、オルビス自体のミッションやビジョンはまったく変えていなくて。
でも、「オルビスのミッションやビジョンを達成するための組織改革」であることがうまく伝えられず、多くの社員を不安にさせてしまったんです。
実際、「組織改革は本当にいいことなのか?」「自分たちはついていけるのか?」という声を、人づてに聞いたこともあります。
でも、「オルビスのミッションやビジョンを達成するための組織改革」であることがうまく伝えられず、多くの社員を不安にさせてしまったんです。
実際、「組織改革は本当にいいことなのか?」「自分たちはついていけるのか?」という声を、人づてに聞いたこともあります。
新島泰久也
それは、組織改革を進める側としては堪えますね……。具体的には、どんな指針や制度に反発があったんでしょうか?
岡田悠希
新卒採用をガラッと変えたときですね。「意欲的に挑戦する人材を採用したい」と全社に共有したところ、社員から「わたしたちのような人材は、必要とされていないのか」という反応があったんです。
一部の社員からは「チャレンジは評価されて、ルーティンワークは評価されない」といった間違った認識もされました。
「きちんと説明せず、振り切ったコミュニケーションをすると、不安や疑念が出てしまう」と反省させられたエピソードですね。
一部の社員からは「チャレンジは評価されて、ルーティンワークは評価されない」といった間違った認識もされました。
「きちんと説明せず、振り切ったコミュニケーションをすると、不安や疑念が出てしまう」と反省させられたエピソードですね。
社内に「心理的安全性」が感じられる場があると、通常業務でも社員が能動的に
新島泰久也
組織改革を進めるなかで、変化の兆しを感じたのはいつごろでしたか?
岡田悠希
明確に変わったのは2020年に入ったころ。その時期から、社員が自発的になってきたんです。
たとえば、2019年からスタートした「ORBIS LAB(オルビスラボ)」。これは社内の有識者がナレッジを共有する、有志の社内アカデミーのようなものです。
取り組みを始めた当初は自発的に登壇してくれる人はほとんどいませんでした。でも、いまでは多くの社員が立候補してくれて、順番待ちの状態になっています。
たとえば、2019年からスタートした「ORBIS LAB(オルビスラボ)」。これは社内の有識者がナレッジを共有する、有志の社内アカデミーのようなものです。
取り組みを始めた当初は自発的に登壇してくれる人はほとんどいませんでした。でも、いまでは多くの社員が立候補してくれて、順番待ちの状態になっています。
新島泰久也
すごい! そうした変化の背景には、「だれもが声を上げて、チャレンジしていいんだ」という心理的安全性がありそうですね。
岡田悠希
そこは意識しましたね。普段の仕事って目標や納期が決まっているので、どうしても「成果」が求められます。でも、そんな中で、心理的安全性を確保するのは難しい。
だから、「オルビスラボは普段の仕事から切り離すことを意識しました。ラボでは、何を言ってもいいし、何をプレゼンしてもいい。
そこで体感できた心理的安全性が、通常業務にも自然につながったと思います。
だから、「オルビスラボは普段の仕事から切り離すことを意識しました。ラボでは、何を言ってもいいし、何をプレゼンしてもいい。
そこで体感できた心理的安全性が、通常業務にも自然につながったと思います。
新島泰久也
なるほど! 実はその取り組みって、リーダーシップ論の世界的権威として知られるジョン・P・コッターが提唱する「デュアルシステム」とかなり似ています。
これは、1つの企業内で現在のビジネスの主力となる「階層型組織」とイノベーションに取り組む「ネットワーク型組織」の2つのシステムを構築する理論で。そうすることで、従来の企業文化を踏襲しながら、俊敏かつ創造的な行動ができる組織になるんです。
岡田さんは「ネットワーク型組織=オルビスラボ」として、本能的にデュアルシステムを取り入れたのだと感じました。
これは、1つの企業内で現在のビジネスの主力となる「階層型組織」とイノベーションに取り組む「ネットワーク型組織」の2つのシステムを構築する理論で。そうすることで、従来の企業文化を踏襲しながら、俊敏かつ創造的な行動ができる組織になるんです。
岡田さんは「ネットワーク型組織=オルビスラボ」として、本能的にデュアルシステムを取り入れたのだと感じました。
岡田悠希
そんな理論があるんですね! まったく意図せずでした(笑)。
行動指針を体現する事例が出てくると、指針の浸透を実感できる
新島泰久也
サイボウズにも、心理的安全性が担保された場で自発的に声を上げることで、チームが成長した事例があります。「イヤホン事件」と呼ばれているんですが……。
ある年の新人研修中、イヤホンで音楽を聴きながら作業をしていた新入社員を、先輩社員が注意したんです。
すると、その新人は「なぜ作業中にイヤホンをつけちゃいけないんですか?」と質問をして。
ある年の新人研修中、イヤホンで音楽を聴きながら作業をしていた新入社員を、先輩社員が注意したんです。
すると、その新人は「なぜ作業中にイヤホンをつけちゃいけないんですか?」と質問をして。
岡田悠希
「逆らったら怒られる」と思っていたら、できない返答ですね(笑)。
新島泰久也
そうなんです! でも、そこから2人の激論が始まり、最終的には全社での議論へと発展しました。
結果、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズのビジョンに沿ったアウトプットにつながるのであれば、OKとなったんです。
こんなふうに、行動指針を体現する事例が出てくると、その指針の浸透を実感できるなと思っていて。
結果、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズのビジョンに沿ったアウトプットにつながるのであれば、OKとなったんです。
こんなふうに、行動指針を体現する事例が出てくると、その指針の浸透を実感できるなと思っていて。
岡田悠希
確かに。オルビスでも、入社3年目の社員が「CLEAR(クリア)」というブランドをリニューアルするために仲間を集めて、経営陣に直談判しに行ったことがありました。
その結果、プロジェクトチームが組まれ、いま彼はリブランディングの責任者を務めています。彼の行動がすごいのはもちろんですが、マネジャー層にチャレンジを受容・応援する風土が根付いた結果でもあると感じた事例ですね。
その結果、プロジェクトチームが組まれ、いま彼はリブランディングの責任者を務めています。彼の行動がすごいのはもちろんですが、マネジャー層にチャレンジを受容・応援する風土が根付いた結果でもあると感じた事例ですね。
新島泰久也
いいですねぇ。でも、入社3年目の社員の活躍に、反発の声はなかったんでしょうか?
岡田悠希
反発というより、彼が道を切り開いたことで「新しいことに挑戦していいんだ。会社は応援してくれるんだ」と伝わり、後に続いていく人たちも現れましたね。
理念への共感・代表の熱量・仲間の存在があったからこそ、改革を続けられた
新島泰久也
岡田さんが組織改革の成果を実感できるまでに、約2年かかっていますよね。
手応えがないなかでも、腐らずに続けてこられたのは、どうしてだと思いますか?
手応えがないなかでも、腐らずに続けてこられたのは、どうしてだと思いますか?
岡田悠希
大きく分けて3つの理由がありますね。
1つ目はオルビスの「スマートエイジング」に、ものすごく共感していたから。
これは、「人が本来持つ美しさを引き出し、自分らしく年を重ねていこう」という考え方で。現在、化粧品市場で主流となっている「アンチエイジング(加齢に抗うこと)」の対極にある価値観です。
1つ目はオルビスの「スマートエイジング」に、ものすごく共感していたから。
これは、「人が本来持つ美しさを引き出し、自分らしく年を重ねていこう」という考え方で。現在、化粧品市場で主流となっている「アンチエイジング(加齢に抗うこと)」の対極にある価値観です。
岡田悠希
2つ目は代表である小林の熱量に感化されたから。小林は「『スマートエイジング』はサスティナブルで、未来永劫残すべき価値ある考え方」だと強く信じ、社員にもよく語っているんです。
わたしもそんな小林に魅了され、ついていきたいし、いっしょに実現したいと思ったんです。
そして、3つ目はHRや現場の仲間たちの存在があったから。同じビジョンに共感していっしょに取り組んでくれる仲間がいたからこそ、あきらめず改革を進められました。
わたしもそんな小林に魅了され、ついていきたいし、いっしょに実現したいと思ったんです。
そして、3つ目はHRや現場の仲間たちの存在があったから。同じビジョンに共感していっしょに取り組んでくれる仲間がいたからこそ、あきらめず改革を進められました。
新島泰久也
なるほど。お話を伺っていて改めて思ったのですが、組織変革って熱意を持った1人から始まっていくんですよね。
サイボウズでは副社長の山田がそういう存在でした。その熱意がまず仲間に伝播して、徐々に組織が変わっていったというか。
サイボウズでは副社長の山田がそういう存在でした。その熱意がまず仲間に伝播して、徐々に組織が変わっていったというか。
岡田悠希
やっぱりあきらめない人がいることが大事なのかもしれません。
チャレンジすれば圧倒的に失敗のほうが多い。けれど、あきらめずに次の一歩を踏み出せば、結果が変わります。
その結果を左右するのが想い。想いがなければ臭いものに蓋をして逃げてしまえますが、想いがあれば反発にも向き合えます。
チャレンジすれば圧倒的に失敗のほうが多い。けれど、あきらめずに次の一歩を踏み出せば、結果が変わります。
その結果を左右するのが想い。想いがなければ臭いものに蓋をして逃げてしまえますが、想いがあれば反発にも向き合えます。
組織作りでもっとも大切なのは「ゆらぎ」を与えること
新島泰久也
岡田さんが考える、組織づくりでもっとも大切なことは何ですか?
岡田悠希
常に最適な「ゆらぎ」を与え続けることでしょうか。とどまったり、凝り固まったりすると、世の中の変化についていけなくなりますので。
ソフト面で言えば、行動指針を示してカルチャーを形成すること。ハード面なら、年功序列などの不合理な制度をなくすことなどが、ゆらぎを与える行為になると思います。
ソフト面で言えば、行動指針を示してカルチャーを形成すること。ハード面なら、年功序列などの不合理な制度をなくすことなどが、ゆらぎを与える行為になると思います。
新島泰久也
ゆらぎを与えるって塩梅が難しくないですか? 大きすぎると反発が生まれますし、小さすぎると何の変化も生じないので。
岡田悠希
そうなんですよ。もちろんアンケートなどで定量的な反応は見えますが、実際に社員の声を聞かないとその実はつかめない。だからこそオルビスでは、ヒアリングの数をKPIにしています。
新島泰久也
一般的にマネジャーって見た目の数値をよくしようと躍起になって、実際の社員の声を聞かないことが多いですが、そうではないと。
岡田悠希
はい。組織改革を通して、「自分たちが思っている以上に、改革の意図がみんなに伝わらない」と痛感しました。
直接対話をしないと共感は生まれないし、みんなの心が変わらないと組織も変わりません。
直接対話をしないと共感は生まれないし、みんなの心が変わらないと組織も変わりません。
「挑戦」と「思いやり」が兼ね備えられた、サスティナブルな組織を目指して
新島泰久也
HR担当者として今後取り組みたいことはありますか?
岡田悠希
オルビスを通じて、「スマートエイジング」を未来につないでいきたいですね。
「スマートエイジング」というと、いまはビューティー領域のイメージがあります。でも、「個々が能力を引き出しながら、どう自分らしく働いていけるか」という意味では、人の成長の領域にも通じることなんです。
「スマートエイジング」を組織として実現するには、人と組織、どちらの成長もサスティナブルにしないといけない。一歩踏み出したいときには背中を押してもらえて、迷ったときには自己肯定感やレジリエンス(困難に立ち向かう心)を補強できる……。
そんな「挑戦」と「思いやり」が兼ね備えられた場所を、会社の中につくっていきたいですね。
「スマートエイジング」というと、いまはビューティー領域のイメージがあります。でも、「個々が能力を引き出しながら、どう自分らしく働いていけるか」という意味では、人の成長の領域にも通じることなんです。
「スマートエイジング」を組織として実現するには、人と組織、どちらの成長もサスティナブルにしないといけない。一歩踏み出したいときには背中を押してもらえて、迷ったときには自己肯定感やレジリエンス(困難に立ち向かう心)を補強できる……。
そんな「挑戦」と「思いやり」が兼ね備えられた場所を、会社の中につくっていきたいですね。
新島泰久也
理想的な状態ですね。サイボウズでもそんな組織を目指したいなと思います。
それでは、最後にHR担当者として、仕事の楽しさを教えてください。
それでは、最後にHR担当者として、仕事の楽しさを教えてください。
岡田悠希
人や組織の成長を間近で感じられることですね。変化を目の当たりにすると刺激をもらえて、とてもワクワクします。
経営資源にはヒト・モノ・カネがあります。その中で唯一、ヒトは意思と感情があり、モノ・カネ以上に本来持つ力を最大化できる可能性も秘めています。
HRはそんな可能性に触れられる、やりがいのある仕事です。
経営資源にはヒト・モノ・カネがあります。その中で唯一、ヒトは意思と感情があり、モノ・カネ以上に本来持つ力を最大化できる可能性も秘めています。
HRはそんな可能性に触れられる、やりがいのある仕事です。
企画:竹内義晴(サイボウズ) 執筆:中森りほ 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
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