多様性、なんで避けてしまうんだろう?
「接客のテレワーク」で夢がかなう! 外出困難でも人とつながれる“分身”ロボットカフェ

「多様性」と聞くと、なんだか堅苦くて難しいイメージがあり、抵抗を感じてしまう人もいるのではないでしょうか。
でも、その心のハードルを飛び越えてみると、実はワクワクする世界が待っているかも……?
そんなワクワクを感じられる場所の1つが、今回訪れた「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」です。
同店で接客をするロボットは、AIでプログラムされているのではありません。なんと、主に外出困難者である従業員が、ロボットを遠隔操作しているのだそう。
テクノロジーを生かし、多様性ある「未来」の働き方を実現させている同店ですが、遠隔操作ロボットでの接客とは一体どんなもので、従業員の方々はどんな働き方をしているのでしょうか?
今回は、日頃から「未来」に触れたいと熱望しているフリーライター・地主恵亮さんが、分身ロボットカフェを体験してきました。
「未来」に触れたい。
時は2022年、21世紀である。わたしは子どものころ、21世紀には「未来」があると感じていた。
ロボットが普通にいて、車が街中を飛ぶ。人間は一歩間違えれば、全身タイツとも言えるような服を着ている。子どものころに思い描いた未来はこんな感じだった。

※筆者が想像する未来のイメージです
ただ、36歳になった現在、わたしの周りではあまり未来を感じられていない。
だってわたしの家には冷蔵庫も、掃除機も、テレビも、ソファも、ベッドもないから。子どもの頃より質素だ。

どうもこの記事を書いている地主です!
今日必要なものを今日買いに行くという、冷蔵庫普及前みたいな生活を送っているわたしだが、本当はもっと未来に生きたいのだ。
子どもの頃に思い描いた未来が、あとどのくらいで来るのか……。調べてみると、なんとすでにロボットが接客をしてくれるカフェがあるらしい。
行こうではないか。
分身ロボットカフェで未来を体験しにいく!

やってきたのは、2021年6月にオープンした東京・日本橋にある「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。
「OriHime(オリヒメ)」と「OriHime-D」という2種類のロボットが、注文を聞き、配膳してくれるカフェだ。
しかし、なぜ「"分身"ロボット」という名前なのだろう……? そんな疑問を抱きつつお店へ入ると、さっそくOriHime-Dが出迎えてくれた。






こちらのカフェは、下図のとおり5つのエリアから構成されている。
今回は、OriHimeによる接客が楽しめる、「オリヒメダイナーエリア」で未来を体験させてもらう。

※2022年5月現在のレイアウト
ロボットの「OriHime」と話そう!

席に座ると、テーブルにはOriHimeが目を緑色に輝かせ待っていた。注文を聞きに来る店員さんはいない。



当店の人気ナンバーワンメニューは、「ロービーバーガー」です。低温調理で柔らかく煮込んだローストビーフと、チーズをたっぷり使った当店自慢の一皿です。
続いて……

OriHimeの隣にあるタブレットにメニューが映り、一つひとつていねいに紹介してくれる

1テーブルに1台のOriHimeがついて、接客してくれる。なんだかワクワクしてきた!





OriHimeのパイロットって、どんな仕事?

このOriHimeはAIではない。主に外出困難者である従業員が「パイロット」となり、遠隔で操作しているものだ。
今回のパイロットは、4歳から電動車椅子で生活している「ゆーちゃん」。奈良から接客をしてくれた。

こういうとき、「ゆーちゃん」と呼んでいいのか、「ゆーちゃん“さん”」と呼ぶべきなのかいつも悩む。たぶんこの悩みは未来永劫尽きないだろう



でも実際に話してみて、「分身」という表現にすごく納得しました! わたしの目に見えているのはロボットなんですけど、人格というかアバターが具現化したように感じるんですよね。
あ、わたしカッコよく見えてます? 実は寝癖があるんですけど!

OriHimeはパソコンで操作しているのですが、画面にそちらの映像が常に出ているんです。わたしが見たい方向をマウスでクリックすると、顔を向けられます!

OriHimeは手や首も動く。目を見ながら話していると、その場にゆーちゃんがいるみたいで、なんだか照れる





タブレットに自分が働いているお店の画像を映し、説明してくれるゆーちゃん
ロボット同士で会話?!

そうこう話しているうちに……

OriHime-Dがコーヒーを運んできてくれた!





OriHime-Dは別のパイロットが遠隔で操縦。メニューの配膳などで店内を動き回っている
OriHimeはAIじゃない。接客する夢が自宅から叶えられる


元々、大学卒業後に就職して働きたいと思っていたんです。でも、わたしはハンディのため、4歳から電動車椅子で生活していて。常に介助が必要なので、外で働くことが難しかったんです。


それに、わたしは接客をするのが夢だったんです。車椅子だと難しいのであきらめていたんですが、OriHimeのおかげでその夢も叶えられました……!




「遠隔で人がお話をしているんですよ」とお伝えして、どうにかご理解いただいています。

ただ、実際にお話してみると、目の前にゆーちゃんがいるような距離感というか、ぬくもりを感じます!

ここで、ロービーバーガーも到着。ローストビーフたっぷりです!
いわばパイロットは「接客のテレワーク」。家族ともいっしょに働ける




でも、OriHimeのパイロットなら同じ家にいて、いつでも介助をしてもらえるので、母も仕事ができるんです。




「今日こんなお客さん来たよ」と話したり、「そんな時はこんなふうにしたらいいんじゃない」と互いにアドバイスをしたりしています。


ロービーバーガー、めっちゃ美味しい!
ロボットカフェのこだわりとは? 店長さんを直撃!
未来を体験できて、食事もおいしい。パイロットさんとの会話も楽しめて、居心地もいい。最高のカフェではないか!
せっかくなので、カフェの運営について店長さんに話を聞いてみることにした。現状は予定にないけども、近い未来にわたしもロボットのお店を開くかもしれないし。

店長の杜多啓佑(とだ・けいすけ)さん。もともと、別のカフェ店舗の運営をしていたときに、期間限定でOriHimeを導入。その縁で、分身ロボットカフェDawnVer.βの店長になったそう


「TAILORED CAFE」は、自家焙煎を中心にさまざまな豆を取りそろえ、お客様の好みに合わせてコーヒーを提供する、いわばコーヒーのスペシャリストです。
地主さんが注文した「OriHimeブレンド」は、当店のために特別にブレンドされたコーヒーなんですよ。

華やかな甘みがあり、個性的ではあるけれど、誰の口にでも合う不思議なブレンドコーヒーでした!



そんな吉藤とともに、いろいろアイデアを出し合いながら商品化したら、オーダー率ナンバーワンの人気メニューになりました。いまやお客様の約7割が注文されていますね。

「ロービーバーガーには、してやられた!」って感想です!
OriHimeの接客は、お客さんとのコミュニケーションが生まれやすい


一般のカフェだと、店員さんと長く話すことってあまりないですよね。注文だけすばやく済ませて、自分の時間を過ごす人が大半ではないでしょうか。





でも、ゆーちゃんさんにローストビーフの増量を勧められたとき、すごく断りづらくて。これってOriHimeとの物理的距離が近いからだと思うんですよ!


そこで増量を勧められると、「お腹空いていないけど、頼んじゃおうかな?」ってなるんですよ!

ただその目的は、お店を存続させ、より拡大していくためです。遠隔での接客がメインとはいえ、いまはコロナ禍の影響もあって、がんばらなきゃいけない状況ではあるので。


バリスタ研修を受けたパイロットが「OriHime&NEXTAGE」(写真右)を遠隔操作し、コーヒーを入れてくれるテレバリスタエリア(火曜・土曜の一部時間のみ営業・要予約)
世界中に70名のパイロットが在籍。積極的な声かけで働きやすい環境を




遠隔で働けるので急なシフトにも対応しやすく、体調不良などで欠員が出たとしても、「今日入れる人いますか?」とチャットツールで投げかければ、必ず誰かがリアクションくれますね。




お店のグッズやコーヒーなどが買える物販エリアでは、OriHimeが商品説明をしてくれる。ちなみに、パイロットさんが担当する場所・役割は、ローテーションで決めているそう


ささいな変化に気づけないと、知らずしらずのうちに問題が起こることもあって。


OriHimeを介してあらゆる人がつながる未来


わたしたちも重度の障害でなくても、加齢や怪我によって、寝たきりになる可能性がありますよね。そんな状況でも、働きたいときに働ける選択肢があるといいな、と。


都心から離れた場所にいる生産者さんに、スマホなどでOriHimeを遠隔操作してもらうんです。


そんなふうに地方と都会をつなげるなど、活用の幅を広げていきたいですね。

でも、違っていました! ディスプレイ画面を通して話すのとは、また別の感覚がありますよね。

そう感じるのは、手が上がったり、ポーズがあったりと、感情表現を身体的にできることが大きいかもしれないですね。


ポーズはもちろん、話す際に目を合わせてくれるのも、「体温」を感じるところなのかもしれない
未来はもう目の前まで来ている!

スマホを初めて手にしたとき、「未来のツールだ!」と感動した。ただ、分身ロボットカフェ DAWN ver.βでは、それを軽く超える感動があった。
SF映画の世界に入ったかのような、未来を感じたのだ。パイロットは遠くにいるのに、目の前にいるように感じる。
杜多さんも「将来的には地方と都会の人をつなぐなど活用を広げたい」と話していた。場所や身体的なことが関係ない未来が到来しつつあるということだ。
ロボットを介して人と人がつながることが普通になれば、いまとは異なるコミュニケーションや働き方、価値観が生まれるかもしれない。そんな未来に触れられたカフェだった。

未来に驚きっぱなしで楽しかった!
企画:深水麻初(サイボウズ) 執筆:地主恵亮 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
サイボウズ式特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」

ここ最近、よく耳にする「多様性」という言葉。むずかしそう、間違った言動をしそうで怖い——。そんな想いを抱えている方もいるのではないでしょうか。サイボウズでも「多様性」を大事にしていますが、わからないこともたくさんあります。この特集では、みなさんといっしょに多様性の「むずかしさ」をほぐし、生きやすく、働きやすくなるヒントを見つけられたらいいなと思うのです。
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執筆

地主恵亮
1985年、福岡県生まれ。基本的には運だけで生きているが、取材日はだいたい雨になる。著書に『妄想彼女』(鉄人社)、『ひとりぼっちを全力で楽しむ』(すばる舎)がある。
撮影・イラスト

編集
