「自分のやりたいこと」がないと、肩身がせまい?──『夢組』と『叶え組』がいるから、組織はうまく回るんです
「やりたいことは何ですか?」
チームメンバーの個性や内発性を生かすために、日頃こうした問いかけをしているマネジャーは多いでしょう。
しかし、全員が明確な夢や目標を持っているわけではなく、中には「やりたいことを持たなければいけない」というプレッシャーを感じている人もいるかもしれません。
では、やりたいことがある人もない人も、心地よく働けるようにするためには、マネジャーはどうやって組織づくりをするとよいのでしょうか?
『世界は夢組と叶え組でできている』著者であるSAC about cookies代表の桜林直子さんと、『「Doな人」「Beな人」チームワークにはどちらも大事』を書いたサイボウズビジネスマーケティング本部長の林田保が考えていきます。
「やりたいことがない」と、肩身が狭くてしんどい
やりたいことがある気持ちがわからなくて、将来の夢を答えられる人は「先生を納得させるためにリップサービスで本心じゃないことを言っているのかな」と思っていたんです。
「やりたいことは?」とよく聞かれるし、それに答えなきゃいけない圧を感じながら生きてきたので、ずっと肩身が狭くて。聞かれても何も思い浮かばず、「いや、とくにないです」みたいな。
でもそのまま生きていくのはしんどいから、やりたいことがなくてもできることを考えようと、早めにあきらめていたかもしれません。
林田さんはいつ頃、叶え組の自分を受け入れることができましたか?
当時の副社長からやりたいことを聞かれて、正直に「いや、とくにないです」と答えたんです。
すると、人生ではじめて「そういう生き方もありますよね」と言われて。「このままでいいんだ……!」と衝撃を受けましたね。
「フォーメーション」で考えたら、夢組も叶え組も欠かせない
とくにやりたいことがないわたしは、夢組のアフターケアをする仕事が多くて。夢組が一気に切り開いた場所をきれいに整えながら道にしていく、みたいな。
その考えがなくなったのは、チームの「フォーメーション」を意識するようになってからです。
だから、全員が夢組だとフォーメーションを組むことができません。夢組があまり興味のもてないことがあったとき、叶え組の力が必要になるからです。
そんなふうにフォーメーション上の役割分担を考えると、夢役と叶え組それぞれの仕事に価値の差はなく、どちらも重要なんだな、と。
とくにやりたいことがないわたしは、広報や経理などお菓子をつくる・売る以外の仕事をすべて引き受けていました。
自分たちが「やりたいこと」に専念できるのは、陰で支えている人がいるからだと、みんなが気づき始めたんです。
すると、あるタイミングでチームを引っ張る立場が逆転しました。「どうやら、あの人が裏でいろいろ握っているらしいぞ」と(笑)。
みんなに「誰も手をつけたがらない仕事」があることを見せる
夢組が落としていったボールを誰も拾わないとき、叶え組が「どうせわたしが拾うんでしょ」と無言で片付けていくことが多いので。
チームのために誰も手をつけたがらない仕事から、わざわざ順番に拾っていくのは、叶え組にとっての「あるある」で……。
「どうせわたしが拾うんでしょ」じゃなくて、「わたしの役割は必要だよね」「これはお手伝いじゃなくて、わたしの仕事なんだ」と。
だから、マネジャーは「あなたの役割は何ですか?」と問いかけて、チームメンバーに気づかせる必要があると思っています。
だからこそ、叶え組がボールを拾っていることにも気づかない。でも、そうなるとただの「便利な人」になっちゃいます。
そう思われないように、叶え組の社員には無言でボールを拾う前に「ここにボールがあるね。これは誰が拾うの?」と周囲に聞こう、と伝えています。
叶え組の役割を認識できれば、夢組は「代わりに“ボール拾い”をしてもらってごめんね」じゃなくて、「しっかり“仕事”をしてくれてありがとう」って言えるようになると思うんです。
できそうなことを任せて「自分の役割」を自覚してもらう
一方で、なかには自分の役割を表明できない・したくない人もいる気がして。まさに昔のわたしがそうで、「いつかは夢組みたいに、目標に向かって思い切り進んでいく人になりたい」という人もいるはずです。
その反応を見ながら、その人が夢組・叶え組どちらの傾向が強そうかを観察しているんです。
やる気が出ないことを無理にさせても、残念な結果になりやすいので、仕事や役割に人を当てはめることはしません。
チーム全体の目的地を見せて、目立つ人だけを評価しない
一人ひとりの特性と役割がうまくはまっていると気持ちいいし、向いていないことをさせるのは嫌なんですよね。
だからこそ、叶え組には「ボール拾いが得意なことは才能であり、立派な能力なんだよ」って伝えたいです。
でも、ポイントゲッターみたいな人もいれば、ボールを拾うような人もいるからこそ、チームでの仕事が成り立つわけで。
それぞれの役割が必要なことを、わたしもチームメンバーに伝えるようにしています。
だから、特定の誰かの活躍を評価するんじゃなくて、長期的な目線で「チームみんなで同じ方向に進めているか」を見ることが大事だなと思っています。
たとえば、売り上げが上がったりしても「みんなで頑張ったから、うまくいったね」と全体がうまくいっていることを評価しています。
わたし一人が「みんなで目的地に向かって進んでいる」と思っていても、メンバーはどこに向かっているか、自分がどう役立っているか見えていない可能性もある。
だから、「全体的にこういう状態になったらいいよね、そのためにはみんなの役割が必要だよね」とメンバーに見せるようにしています。
夢組か叶え組かは、その時々で変化する
夢組の「これがやりたい!」という気持ちで一気に進める時期もあれば、やりたいことへの道筋を叶え組がつくることで進める時期もある、といったように。
だから、マネジャー側が「この人は夢組だからどんどんチャレンジしてもらう」「あの人は叶え組だからサポート役をしてもらう」と決めつけないことも大切だと思っています。
そもそも、「やりたいことがない」のと「やりたくない」は違っていて。叶え組に見える人の中にはやりたくない(やる気がない)わけではなく、ただ単にやりたいことが思い浮かんでいない人もいます。
そのため、どちらのタイプもやりたいことが思い浮かんだり、やるべきことが決まったりすると馬力はあるんですよね。
だからこそ、マネジャーはチーム全体を見つつ、その時々で一人ひとりが馬力を出せそうな仕事をお願いすることが大事なんじゃないかな、と思っています。
本音を言い合える場所をつくれば、組織はうまく回っていく
だから、そういう人が答えやすくなるように、マネージャーは「どうしても気になることはない?」と質問すればいいと思います。
でも、わたしは「口だけ出すのだって、才能じゃん」って思います。問題が起こりそうなことを共有してもらえたら、「じゃあ、どうする?」と議論できるようになる。だから、口だけでいいから全部言ってほしいんです。
それでも「最終的に『言ってくれてありがとう』って思えるから、とにかく一回聞いて」と言えるかどうか。そこの信頼関係はすごく重要ですね。
夢組と叶え組が離れたところで言い合っていると関係性が悪くなるし、せっかく気づいた問題点も改善できない。
そうならないように、できれば同じ場所で当たり前のように口出しできるようにすることが重要です。
企画:野阪拓海(ノオト)+サイボウズ式編集部 取材・執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
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執筆
流石 香織
1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。