「働くママ」が抱える課題について、みんなで考えるきっかけをつくりたい──2014年、サイボウズが制作したワークスタイルムービー「大丈夫」は、子育てをしながら働くママをリアルに描き、150万回再生される話題作になりました。
あれから10年となる2024年、「大丈夫」の続編となる「大丈夫2 」を公開。女性管理職となった主人公の葛藤や気付きを描きます。
動画公開を記念して、「Cybozu Days 2024」では、女性管理職をテーマにしたトークセッションを実施。會澤高圧コンクリート常務取締役の畑野奈美さんとサイボウズ マーケティング本部ブランディング部長の和泉純子が、管理職になるまでの道のりと気づきを語りあいました。
「こういう管理職なら、目指してみたい」と肩の力を抜いてほしい
大谷
今回は「『女性の管理職はつらい』って本当?―現役女性マネージャーが話す管理職のリアル―」をテーマに、パネルディスカッションをさせていただきます。モデレーターの大谷です。よろしくお願いいたします。
大谷イビサ(おおたに・いびざ)。オンラインメディア「ASCII.jp」編集長。IT・ビジネス担当する記者・編集者。2017年からは新メディア「ASCII Team Leaders」を立ち上げ、働き方とテクノロジーの理想像を追い続けている。かつては子育てを妻に任せっぱなしで仕事に専念していたが、妻の復職に伴い、現在はフルリモート勤務の大谷さんが夕食つくりなどの家事を担当。今回は、「夫と主婦の気持ちがわかる枠」としてモデレーターを務める
大谷
まずはお二人から自己紹介をお願いできますか。
畑野
會澤高圧コンクリート株式会社の畑野奈美と申します。2009年に工業系の大学を卒業した後に入社して、今年で16年目です。昨年新設された未来開発本部の本部長を務めています。 北海道帯広市の出身で、現在は札幌市で在宅勤務をしています。4歳になる娘がいるのですが、今日はちょうど夫の都合がつかず面倒をみられないので、今回の出張にいっしょに来ています。今日はどうぞよろしくお願いします。
畑野奈美(はたの・なみ)1982年北海道帯広市生まれ。北海道苫小牧市に本社を置く総合コンクリートメーカー・會澤高圧コンクリート株式会社で、常務取締役、未来開発本部 本部長を務める。2012年よりkintoneを活用した業務改善に取り組み、全社の作業効率アップに寄与
和泉
サイボウズの和泉純子と申します。子どもが2人いまして、長女が高校1年生、長男が小学校6年生。夫は同級生です。 一緒に働くメンバーからは「好奇心モンスター」「きれいごとを言わない現実主義」と評価をいただいています(笑)。本日はよろしくお願いいたします。
和泉純子(いずみ・じゅんこ)サイボウズ マーケティング本部 ブランディング部長、Webクリエイティブ部 部長を兼務。2003年に派遣社員としてサイボウズへ。2005年から無期雇用社員として働いていている
大谷
このセッションの冒頭で公開された「
大丈夫2 」ですが、畑野さん、ご覧になりながら泣いていましたね。どうでしたか。
畑野
10年前に公開された「大丈夫」を先に拝見していたのですが、自分の娘が4歳で主人公と重なる部分もあって、そちらをまずみて号泣していて(笑)。 「大丈夫2」は、仕事の現場がリアルすぎて、刺さりすぎて、泣いてしまいましたね。
VIDEO
大谷
「大丈夫2」は、どのような背景で制作されたんですか?
和泉
2014年に公開した「大丈夫」 は、主人公が3歳のお子さんを抱えながら、ワーキングマザーとして働く日常、つまりわたし達にとっての普通な毎日を描いた作品でした。
あれからちょうど今10年経って、周りをみると女性管理職も増えてきている。じゃあ、彼女の10年後、管理職の姿を描いてみようということで「大丈夫2」を企画しました。
大谷
なるほど。
和泉
伝えたいのは、管理職は大変ということではなくて。こんな管理職ならイメージできるなとか、こういう感じだったらわたしも選択肢に入れられそうだなとか、ちょっと肩の力を抜いてもらえれば いいな、と思っています。
大谷
主人公は強い女性でも、バリバリできる女性でもなく、生活も仕事も、悩みを抱えながら前に進む姿が印象的ですよね。
業務効率を上げる仕組みづくり、会社初のテレワーク……畑野さんの試行錯誤
大谷
お二人は女性管理職として活躍されていますが、どういう道のりでキャリアを歩んできたのでしょうか。そこで、人生をマインドグラフにしていただきました。まずは、畑野さんのグラフからみていきましょう。
畑野
新卒時代は札幌勤務予定が東京支社配属に変更になり、不安だらけの社会人生活が始まりました。ただ、同期もいっぱいいましたし、それぞれのポジションで頑張ろうということで、ちょっとモチベーションが上がっています。 でも、少しずつ仕事ができるようになった2011年に東日本大震災が発生し、携わっていたプロジェクトがストップ。このタイミングで、自分が何をすればいいかわからない状態になってしまいました。
大谷
グラフが下に突き抜けているところですね。
畑野
そうですね。その後、土木製品の設計部署への異動で札幌勤務になり、元々従事していた住宅基礎のプロジェクトも並行して担当していました。ちょうどそのころにkintoneを使って、離れたところにいる他部署のメンバーと業務を分散して、一緒に仕事ができる仕組みを作りました。
業務がスムーズになり、徐々に新たな仲間も増えて、やりがいも感じられるようになっていったんです。
参考:kintoneで脱残業地獄 すき間時間を活用する「お仕事ビュッフェ」で脱1人運用
大谷
うんうん。kintoneによって仲間とつながることができた実感があり、モチベーションが上がっていったという感じですね。
畑野
そうです。順調に楽しくやっていたところ、新しいプロジェクトに招集されて。今度は時間外の打ち合わせや作業が多くなってしまい、深夜残業の日々が続きました。
大谷
結婚のすぐ後に「第一次離婚危機」があるのも気になります。
畑野
残業が多い仕事であることは、夫も納得した上で結婚して。最初の頃は夫が差し入れをしてくれたり、ご飯をつくってくれたりもしました。でも、「段々、何のために結婚したのかわからなくなってきた」と言われるようになりまして……。
大谷
それでモチベーションがだだ下がりになってしまったんですね。その後、プロジェクトが終わった、と。
畑野
はい。しかし、間髪入れずにまた違うプロジェクトに招集されて、再び同じように深夜までの残業が続いてしまい、「第二次離婚危機」が訪れます。
大谷
さすがにもうやってらんない、って感じですかね。
畑野
はい。それで、仕事をやめる覚悟を持って社長に「もう無理です。家庭が壊れます。在宅勤務をさせてください」と直談判しました。 そのときは前例がなかったので在宅勤務は難しいと思っていたのですが「いいぞ。パソコンを持っていればどこでも働けるだろう」と拍子抜けする答えが返ってきたんです。
大谷
意外にも(笑)。
畑野
元々、kintoneを使って他拠点のメンバーと仕事をするという、働く場所を選ばない業務を担当していたので、在宅勤務による影響はありませんでした。その後、仕事もプライベートも安定してきた2020年に、第一子の娘が生まれて。
大谷
うんうん。
畑野
わたし達のチームは在宅勤務で、社内では「姿のみえない、何をしているのかわからない存在」だったと思います。ですが、「kintone hive(※)」への出演や「kintone AWARD」へのファイナリスト選出をきっかけに、テレワークをしながらも事業を支えていることを知ってもらえたんです。 そういうこともあって、2022年に執行役員に抜擢されたのではないかと思います。※kintoneを活用した業務改善ノウハウをユーザー同士で共有しあう交流型イベント
大谷
その後、モチベーションが下がっているのはプレッシャーによるものですかね。
畑野
「モチベーションが下がった」というより「不安があった」といったほうが正しいかもしれないです。常務取締役になったタイミングで、新しい本部の本部長という大きなものを任されたので。それで右往左往しながら、いまに至ります。
役職が上がることで、みえる世界も変わっていく
和泉
畑野さんに比べると、わたしのグラフは平行線をたどっているかもしれません。 新卒で出版社に入り、雑誌の広告営業をしていました。営業ノルマがあったのですが、ノルマを超えすぎると次月が大変になるので、ノルマを達成したときは空の日報を書いてさぼるような日々を過ごしていました。 そんな生活を送るなかで「このままだとダメ人間になってしまう」と思い、転職を決意します。「これからはITの時代だ」と、初心者でも受け入れてもらえるIT会社に入り、情報システム部門の仕事を3〜4年やりました。
和泉
そこでいまの夫に出会って結婚し、それをきっかけに転職を考え始めます。 そのときに自分の知っている範囲で仕事を探すよりも、自分の今の能力に合う仕事とマッチングしてもらったほうがよいと考え、派遣登録をしたんです。 それで、派遣された先がサイボウズでした。その1年半後ぐらいに無期雇用になり、そこから20年働いています。
大谷
なるほど。
和泉
わたしが社会人になった年と、サイボウズが創業した年はちょうど同じなんです。 その頃のサイボウズは、会社のフェーズがどんどん変わって、新しいことが飛び込んでくるような状態で。ワクワクしながら良いモチベーションが保たれていたように感じますね。
大谷
畑野さんに比べると、グラフが安定していますね。
和泉
ずいぶん落ちているところもありますけどね。2017年頃、プロモーションを担当していたサービスを終了させるという意思決定をしたときに、チームの士気が下がって雰囲気が悪くなったことがあって。 もちろん終了までは責任を持ってやろうと決めていましたけど、自分の精神衛生上、何か兼務しないとやっていけないかもしれないと思って、社長の青野さんに相談しました。それで、サイボウズ Officeのプロモーションを兼務して、また気持ちが戻っていったんですね。
大谷
そこから段階的にモチベーションが上がっていったんですね。
和泉
新しいことがあると、モチベーションが上がっていくタイプなんですよね。 特に、管理職になるまでは、上司や部下など縦のラインでしか相談したことがなかったのですが、副部長、部長と役職が上がっていくにつれ、チームを超えていろいろな人と相談ができるようになり「こんな世界があったんだな」と同志が増えてうれしい気持ちでした。
「会社の方針」と「メンバーのやりたいこと」の交差点をつくる面白さ
大谷
元々2人は女性管理職に対してどのようなイメージを抱いていましたか?
和泉
子育てもしながら仕事もバリバリしていて、本当にパワーがある人しかなれないと思っていました。もしくは親の助けがあるとか、余裕のある人じゃないとできないイメージがありました。
畑野
わたしも同じです。入社した頃、女性の大先輩がいて、何年か一緒に働いたのですが、能力も考え方も、自分とはまったく違っていて。会社が望む管理職がこういう方なんだったら、わたしにはできないし、管理職とは無縁だと思っていました。
大谷
性別が同じだからといって、同じような働き方ができるわけではないですよね。 実際に管理職になってみて、やりがいってどういうところに感じますか?
和泉
「会社の方針」と「メンバーがやりたいと思っていること」の交差点をみつけて、チームの目標をつくれたとき にやりがいを感じますね。そういうときってプロジェクトが加速するのがわかるんです。これはとってもうれしいな、と。
大谷
なるほど。畑野さんは、大変だと感じたことや、やりがいはありますか。
畑野
弊社は元々女性の社員自体が少なくて、時代の流れ的に「女性を役員に登用しなくてはいけない」という会社の空気から、わたしが選ばれたのではないかと勘繰ってしまうところもありました。 それでも1年がんばって、でも、できないこともあって。それを周りがフォローしてくれるときに、ありがたさと不甲斐なさを感じていましたね。
大谷
うんうん。
畑野
一方で、管理職になると、コミュニケーションを取れる人が増えて役員レベルで話が動くようになるので、物事のスピードがすごく速くなるのはよかった ですね。 以前、採用について「いま、会社全体でどういう能力を持っている人たちがどのぐらいいるか」を、本部間で話すことがあったんです。 その際に「じゃあ、この人の話も聞かなきゃいけないね」とトントン拍子で話が進んだことを覚えています。
大谷
管理職って孤独な立場にみえがちじゃないですか。でも、お二人のお話を聞いていると、相談相手が増えて、人脈も広がっていますよね。 意外と、管理職って孤独ではないんですかね?
和泉
横を向けば、同志がいる感覚です。わたしは、畑野さんも同志だと思っています!
畑野
そうですね! 会社を超えて同志と思える存在に出会えるのは、とてもうれしいです。
ライフステージによって、目指したいキャリアは変わっていくもの
大谷
これは質問に入れるかどうか迷ったんですけれど、「女性ならでは」な管理職の価値って、ありますかね?
和泉
正直、女性ならではというのはないと思います。 いまは管理職を務めてはいますけど、これまでの16年間はずっと現場です。「女性ならでは」ではなく、時短勤務や長く現場を担当していた経験による価値はあるのかなと思います。
大谷
大切な視点ですね。
和泉
管理職は役割の一つだと思っているので、柔軟に考えていきたい んです。 自分のライフステージに変化が起きたときや、管理職の適性がある人がほかに現れたら、ポジションを譲ってまた現場に戻ってもいいかなと思っています。
畑野
同感です。本当に能力がある人は男女ともにたくさんいて、考え方も人それぞれです。偶然わたしが時代にマッチしたというか、会社が必要としている部分にマッチしただけ だと思うので、優秀な人がいたら譲りたいという気持ちもあります。
大谷
なるほど。では、これから社員を管理職に抜擢する立場の方に伝えておきたいメッセージはありますか。
和泉
部下に「自分は管理職になる気はない」と一度言われたからといって、鵜呑みにしないでほしいです。男女問わず、子どもの年齢や親の介護など、人生のフェーズによって仕事のアクセルを踏めたり踏めなかったりします。だからこそ、もっとこまめにキャリアプランや望むライフスタイルを聞いてほしい ですね。
大谷
ありがとうございます。最後に、管理職を視野に入れている方々に、メッセージをいただければ。
和泉
わたしも管理職になってから「これでいいのかな?」と不安になることもありますが、それでも「これで大丈夫」と言い聞かせながら、一歩一歩進んでいます。みなさんもあまり気負わずに、チャンスがあれば管理職に就いてみてほしい と思います。
畑野
管理職を任されたときに「管理職とはこういうものだ」など、気負ってしまうこともあると思います。もし悩んでしまったときは、自分の強みや自分の目指すべきものを思い出して、できることを一つずつ取り組めば大丈夫 とお伝えしたいです。
サイボウズ ワークスタイルムービー『大丈夫2』
VIDEO
サイボウズは、2014年に仕事と育児の両立に悩む女性をテーマにした動画『大丈夫』を公開し、当時150万回再生の反響がありました。
10年後の2024年、出産・育児による離職は減りつつあるほか、男性の育児休業取得推進の機運が高まるなど、キャリアと家庭を両立する環境は少しずつ変化しています。一方で、昨今では女性の管理職比率向上が求められ、キャリアアップと家庭の両立は、これからさらに課題となり得ます。
今回新たに公開する動画『大丈夫2』は、『大丈夫』の続編として制作。『大丈夫』では幼い子どもの育児と仕事の両立に奮闘していた主人公が、『大丈夫2』では管理職となり、マネジメントの難しさに向き合いながら、家庭との両立に励む姿を描きます。
10年の時をつないで、西田尚美さん演じる主人公の葛藤や気づきを描く『大丈夫』と『大丈夫2』 を、特設サイトからご覧ください。
企画:神保麻希(サイボウズ) 執筆:中森りほ 編集:モリヤワオン(ノオト)