妻の留学に付き添い、イギリスで1年限定のリモートワークをしたら「生き方の幅」に気づいた話

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「夫の海外赴任に家族でついていく」というのは、これまでの日本企業で働く人ならよくあるケースでした。でも、「妻の海外留学に夫がついていく」というケースは少ないと思います。

そんな決断をしたのが、株式会社VOYAGE GPOUPの渡辺亮介さん。イギリス在住のリモートワーカーで、イングランド東部の街・ケンブリッジに住み、約1年の期間限定で、東京の本社とやり取りをしながら働いています。その理由は「妻の海外留学に付き添うため」だったそう。

なぜ渡辺さんはこの働き方を決断したのでしょうか。フランス・パリ在住、サイボウズ式編集部でリモートワーカーとして働く永井友里奈がリモート取材でお話をうかがいました。

「どちらかしか選べない」ではなく、どちらも選びながら成長したい

永井
イギリスとフランスで暮らす私達は、サイボウズ式のリモートワークを取り上げた記事のツイートがきっかけで繋がったんですよね。

渡辺
はい。ぼくのツイートに永井さんがコメントをしてくれたんです。

渡辺さんのツイート。同じように東京の会社に所属しながら海外でリモートワーカーとして働く人がいるということを知るきっかけとなった。

永井
突然すみませんでした。「お話してみたい」という言葉を、そのまま受け取ってしまって(笑)。

渡辺
いえ(笑)。

永井
「妻の留学にともない」というのがすごく素敵で、ぜひお話を聞いてみたいと思ったんです。

渡辺
ありがとうございます。

永井
仕事の優先順位って人生のステージごとに変わって当然で、「企業に所属しながら、働き方を選べる」ようにしたいなと思っていて。渡辺さんは、それを実現されている方なのかなと感じたんです。

渡辺
僕は「どちらかしか選べない」ではなく、「どちらも選びながら成長していきたい」と思っているんですよね。今のリモートワークという働き方は、その手段の1つです。

永井
なるほど。私も「パリで暮らす」という夢と「自分にとってやりがいある仕事がしたい」という両方をあきらめられず、今に至ります。

渡辺
海外に限らず、それぞれの目的や状況によって、「働き方を選べる」ということが普通になっていくといいなと思いますよね。

リモートワークの制度はなく「会社を辞めてイギリスへ行きたい」と相談した

永井
渡辺さんがケンブリッジでのリモートワークを始めたのはいつですか?

渡辺
2017年10月ですね。今年の8月まで、ここで暮らす予定です。

永井
そもそも、なぜ海外でのリモートワークを?

渡辺
きっかけは、妻が働く会社に海外留学費用を補助する制度があったことです。彼女はもともと留学を希望していて、「せっかくだから挑戦しよう」と。

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渡辺亮介(わたなべ・りょうすけ)さん。インターンを経てVOYAGE GROUPに新卒入社。ポイント交換サイト「PeX」の全面リニューアルやフロー型メディアの立ち上げなどを経て、株式会社VOYAGE MARKETINGで企業のデジタル領域に関するソリューション提供事業を推進。2017年10月にイギリスへ渡り、現在リモートワーク中。

永井
なるほど。

渡辺
妻が行くなら自分も……ということで、結果的に上司と相談して、1年限定でリモートワークをさせてもらえることになりました。

永井
渡辺さん自身も以前から海外で暮らしたいと考えていたんですか?

渡辺
いえ。VOYAGE GROUPにも海外と関わる仕事はあるので、漠然と「いつか海外の事業も経験してみたいな」という気持ちがあったくらいです。

永井
そうなんですね。ちなみに、VOYAGE GROUPはリモートワークOKなんでしょうか?

渡辺
それが実は、NGだったんですよ。うちの会社では国内外関わらず、リモートワークは許可されていませんでした。だからまずは上司に「会社を辞めてイギリスへ行きたい」と相談したんです。

永井
なんと……。そこまでの覚悟だったんですね。

渡辺
はい(笑)。

永井
上司の方は、どんな反応を?

渡辺
当然ながら最初は「えっ!?」という反応でした。僕自身、ネガティブな気持ちで辞めたいと思っていたわけではないので、きちんと背景や経緯を説明しました。その結果、「だったら海外でも働き続けられるような環境を用意しようか」と言ってもらえて。

永井
とても柔軟に考えてくれる上司だったんですね。

渡辺
そうですね。本当にありがたかったです。VOYAGE GROUPは新たな仕組み作りの提案に対して、しっかり聞く耳を持ってくれる環境だとは思っていましたが。

永井
サイボウズと似ているのかもしれませんね。私は一度会社を辞めてパリに来たのですが、社長の青野に直接「リモートワークで、パリ在住のまま復職したい」と願い出てOKをもらったんです。「青野さんならきっと聞き入れてくれるんじゃないかな」と勝手に期待していました(笑)。

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永井 友里奈(ながい・ゆりな)フランス・パリ在住。新卒でサイボウズに入社後、7年間営業部に所属。2016年3月に育自分休暇制度を利用し退職後、憧れのフランスへ。パリで感じた「多様性」や「生き方」を伝えたいと、現在パリで生活をしながらサイボウズ式編集部に所属。フランスから一人でリモートワークに挑戦中。

渡辺
「会社は自分の話を聞いてくれる」という信頼感が前提にあれば、前例のないことも提案しやすいですよね。

「妻についていく」という選択は、グローバルでは普通のことだった

永井
渡辺さんの決断に対する周囲の反応についても伺いたいのですが。

渡辺
どうぞ。

永井
実際にイギリスへ行くことが決まって、社内はどんな反応でしたか?

渡辺
男性には「ええっ!?」という感じで驚かれたんですが、女性はあっさりしていた印象です。「あ、そうなの」みたいな(笑)

永井
反応の差が激しいですね(笑)。

渡辺
男性の場合は、そもそも「妻についていく」というのがポピュラーではないですからね。「もしリモートで働けなかったら、どうするつもりだったんだよ?」とも聞かれました。

女性は産育休を経験している人もいるので、「1年間戻ってこない」ことは別に珍しくないという感覚なんだと思います。割とラフな感じで「また来年ね」と言ってくれました。

永井
女性も人それぞれですが、男性の場合だと特に「1年間キャリアを中断することになるのでは?」という不安を感じるのでしょうか?

渡辺
そうだと思います。でも自分は、このリモートワークはキャリアの中断ではなく、発展だと考えています。

永井
個人的には、「奥さんについていく」という決断はとてもかっこいいなと思いました。

渡辺
ケンブリッジ大学に通う人の話を聞くと、結構そうしたケースはあるみたいですね。「日本人では初めてなんじゃないか」と言われたそうですが。

永井
これまでの日本では、「夫の転勤についていって妻は仕事を辞める」というパターンが多かったと思うんです。男性・女性に関わらず、「リモートワークをしながらキャリアを継続できる」「新しいことも学べる」ということがもっと伝わっていけば、渡辺さんのような選択がポピュラーになっていく気がします。

渡辺
僕はそれを実感していますよ。イギリスへ来てからは、学習する機会も格段に増えました。

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ケンブリッジ大学で日本語を学ぶイタリア人とニュージーランド人の学生との言語交換の様子。渡辺さんが日本語学科の授業に参加し、ディスカッションをすることもあるという。

永井
海外では仕事をしながら大学院に通う人も多いですよね。日本は「学びは大学まで」「仕事は仕事」という考え方が一般的ですが。

渡辺
そうですね。こちらでは30歳を超えてから大学院へ通う人も珍しくありません。何というか、「生き方の幅広さ」のようなものを知って、価値観が変わりました。

永井
プライベートの過ごし方も変わりましたか?

渡辺
変わりました。東京で暮らしているときは、僕も妻も「仕事をしていているだけ」という感じでしたが、イギリスに来てからは一緒にいる時間が増えましたね。妻は授業が終われば17時くらいに帰ってきます。それからは2人の時間です。

永井
素敵ですね。今のように家族との時間を大切にするライフスタイルは、日本に帰ってからも続けていけそうですか?

渡辺
継続はしたいと思っています。もともとは仕事一辺倒でしたが、家族との時間や何気ない日常生活の中でのインプットも大切だと気づけたので。今後の社会人生活でも、うまくバランスを取っていきたいですね。

仕事の幅を絞ったからこそ、テーマを深く追いかけられる

永井
現在は、どのようなタイムスケジュールで生活しているのでしょうか?

渡辺
基本的には東京の時間に合わせています。イギリス時間でいうと、朝4時から昼12時までの8時間が仕事です。

永井
朝の4時からですか……。

渡辺
はい。リモートワークを始めるときに、会社に対して自分からこの業務時間を提案しました。

永井
なるほど。特例を認めてもらう立場として、覚悟をみせるという意味でも、自分からの提案って必要ですよね。すごく共感します。

渡辺
そうですね。

永井
でも、朝4時から働くのってつらくないですか?

渡辺
まぁ、それは慣れますね(笑)。毎日3時に起きて、20時頃には寝るという生活です。こちらでの付き合いで食事に行くときは、早めに帰るようにしています。

永井
生活時間を工夫しているんですね。

渡辺
仕事自体は日本にいるときに担当していた内容が大部分なので、大きな戸惑いはありませんでした。クライアントとのやりとりなど、対面の必要性があるものは日本のメンバーにお任せして、自分は裏側でその方針をまとめたり資料を作ったりという仕事をしています。

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永井
リモートワークだと、1人きりで孤独に仕事と向き合う場面も多いと思うんです。私はそれで悩んだこともあったのですが、渡辺さんはいかがですか?

渡辺
僕の場合は、逆にその孤独がプラスに作用した面もありまして。

永井
孤独がプラスに、ですか?

渡辺
はい。日本にいるときは、事業企画の人間として営業やマーケティングなどにも幅広く関わっていました。今は良い意味で、テーマを絞って突き詰めることができています。

永井
仕事の幅が狭まった分、深く追いかけられるようになったということでしょうか?

渡辺
そうですね。物理的に関わりきれない仕事が出てくるのはやむを得ないですが、その分、一つひとつのテーマについて今までよりも深く考えられるようになったと思うんです。これリモートワークそのものの効用かもしれません。

永井
いい効果ですね。では、もし許されるならずっとこの働き方をしたいですか?

渡辺
いや、それは嫌ですね。だったらこっちで就職します(笑)。こっちの事業をやるならいいんですけど。

永井
わかります。でも、なぜでしょうか?

渡辺
やはり日本向けのサービスなので、日本のマーケットの動向がわかりにくいことはデメリットですね。だからこそ、1年限定というのがインプットとアウトプット、自分とチーム、すべてにおいていいバランスを与えてくれていると感じてます。

永井
なるほど。

渡辺
場所を変えて期間限定のリモートワークなら、またやりたいですけどね!

「やれている感」はある。それでも不安は0ではない

渡辺
とは言え、日本とのコミュニケーションでは難しさを感じる場面もありまして。

永井
わかります。

渡辺
「みんなでブレストをする」みたいな会議にはなかなか参加できないし、関係者が社外にまでおよぶような業務に参加するのも難しいんです。そういったデメリットもありますね。

永井
なかなか、「東京のオフィスに出社していたときと同じように」とはいきませんよね。

渡辺
そうですね。そこはとても感じます。

永井
これもリモートワークの難しいところだと思うのですが、「いかに評価してもらうか」という部分で悩むことはありませんか? 私はコミュニケーションが少ない中で自分をどうアピールしていくか、課題に感じることがあって。

渡辺
たしかに工夫が必要な部分ですよね。僕の場合は成果物のイメージをきっちり事前共有し、こまめに発信するようにしています。

永井
日本にいたときもきちんとしていた思うのですが、頻度は変わりましたか?

渡辺
頻度は格段に高まりました。以前は会話の中で何となく決められていたことも、遠隔でのテキストベースのやり取りになると難しいので。僕の場合は、日本にいた時に上司と相談して、リモートワークのために新しく、成果物の共有や進捗管理のためのフォーマットを作りました。

永井
なるほど。働き方が変わっていくのに合わせてフォーマットを見直すことも大切ですね。

渡辺
「これでいいのか?」と自問自答しつつではありますが、個人的には「やれている感」を持っています。求められていることに対しては100パーセントこなしている自信はある。ただ、リモートだとどうしてもフィードバックをもらう機会が少なくなるので、不安は残りますけどね。

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自宅の仕事場の様子。現在は大学が運営する寮で暮らしているためWIFI環境も完備されており、リモートワークをする上で特に支障になることはないとのこと。

永井
やはり対面コミュニケーションとの違いはありますよね……。

渡辺
自分だったら、リモートワークを評価する立場になりたくないというのが、本音です(笑)。

永井
定量的な指標であれば分かりやすいですが、目標に則った行動ができているかどうかを見てもらうためには、それこそ日頃の発信やコミュニケーションが重要になりそうですね。

渡辺
そうなんです。リモートワークだからこそ、自分を客観的に見たり、他の人からどう見られているのかを意識したりすることが一層重要なのだと感じています。

「カップル文化」を通して、国際感覚が身についた

永井
イギリスで暮らすことによるメリットはありますか?

渡辺
当初の目的だった「国際感覚を身につけること」については、やはり日本で暮らしているのとは格段の差がありますね。 もともとの英語力は大学受験レベルでしたが、今は家庭教師にもお願いして毎週英語を勉強しているので、日常会話はできるようになりました。

永井
現地の方とコミュニケーションを取る機会も多いのでしょうか?

渡辺
はい。妻が通うケンブリッジ大学のカリキュラムは社会人であることが前提で、一緒に参加できるイベントも多いんです。そこへ行けば、イギリス人だけでなく、さまざまな国の方と話せます。

永井
そういえばフランスにも、イベント事に配偶者やパートナーを連れて参加する「カップル文化」のようなものがありますね。

渡辺
わかります。良い文化ですよね。コミュニティを広げていく機会は、全般的に日本よりも多い気がしています。あと、僕の本業は事業企画で、ウェブサービスを開発したり事業を考えたりすることなんですが、ここでも海外にいるメリットを感じています。

永井
海外にいるほうがやりやすい?

渡辺
はい。こちらで暮らしていないと出会えないウェブサービスがたくさんあるんです。こうした最新事例に触れられるのはダイレクトなメリットですね。

会社でのキャリアを継続しながらやりたいことを追いかけられる

渡辺
そう言えば、少し前に入社3年目の会社の後輩が訪ねてきてくれたんですよ。

永井
おお。うれしいですね。

渡辺
はい。うれしくて、僕が今どんな風に働きどんな風に暮らしているのか、たくさん話しました。

永井
どんな反応でしたか?

渡辺
「うちの会社でもそんな働き方ができるんですね!」と言っていましたね。若手はこうした働き方ができる柔軟な会社だとは思っていなかったみたいです。

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永井
渡辺さんの生き方がいろいろな影響を与えているんじゃないでしょうか。

渡辺
その子は「自分も何かやりたいことがあれば積極的に相談します」と言っていたので、良い影響だったと信じています(笑)。転職を考えるときって、「仕事がつらい」「人間関係が嫌だ」といった理由とは別の背景も往々にしてあるじゃないですか。

永井
それこそ、かつての渡辺さんがそうだったように。

渡辺
はい。なので、若手に「いろいろな生き方がある」ということを知ってもらい、会社でのキャリアを継続しながらやりたいことを追いかけられる可能性があるんだということを感じてもらいたいんですよね。

永井
組織の可能性も広がっていきますよね。

渡辺
そう思います。マネジメントをする側の立場で考えても、退職や転職以外の選択肢を準備できることは大切です。そうした意味でも、自社のリモートワーク環境をうまく整備していきたいですね。

永井
そういう上司には、メンバーも相談しやすいと思います。そんな人が社内にいるというのも大きな変化ですよね。

渡辺
もちろん働き方には人ぞれぞれの考え方があるでしょうし、僕は別に「仕事一辺倒」でもいいと思っています。ただ、ライフステージが変われば、仕事と生活のバランスも変わります。僕自身の例でいえば、そうした変化の中で新しい視点を得ることもできました。そんな経験を伝えることで、何かのきっかけになれればいいな、と思います。

執筆・多田慎介/撮影・井田純代・渡辺亮介/企画編集・永井友里奈

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