場所や時間に制約を受けないリモートワークができれば、幸せに働けるのだろうか──。
介護や子育てとの両立、交通渋滞や満員電車の緩和につながるなど、これからの働き方の一つとしてますます注目されているリモートワーク。
ポジティブな面に光が当てられる一方で、リモートワークの課題や実践者のリアルな声を知る機会は、まだまだ少ないのではないでしょうか。
「# サイボウズ式Meetup Vol.15」では「リモートワークにおける『幸せなはたらき方』」をテーマに、リモートワーク実践者の「リアル」を共有しました。
登壇者は、NewsPicks コンテンツ・キュレーションチームの石田礼子さんと、みらいコンサルティング株式会社 新潟支社長 兼 事業創造・みらいイノベーションセンターSHIBUYA担当の櫻井茂樹さん、そして、サイボウズ式編集部からは、東京と新潟で二拠点生活を実践している竹内義晴の3人。
そこで語られたのは「コミュニケーション」と「ツール」の工夫の大切さでした。
一言で「リモートワーク」といっても要素はさまざま
竹内
近年、「リモートワーク」という言葉をよく耳にするようになりました。でも、「打ち合わせの間にカフェで仕事」から、「遠方で週5日、フルリモート」まで、その範囲はすごく広いと思っていて。
それだけに、一言で「リモートワーク」といっても、抱える悩みや課題は違うんじゃないかと思うんです。今日は、もっともハードな(笑)リモートワークをしている3人で話してみたいと思います。
石田さんは、どんな働き方をしているんですか?
石田
三重県でフルリモートワークをしていて、月に一度東京のオフィスに出社しています。
石田礼子(いしだ・れいこ)。株式会社ニューズピックス コンテンツ・キュレーションチーム マネージャー/株式会社 中部システムセンター ワークスタイルコーディネーター。三重県在住のフルリモートワーカー。自宅やコワーキングスペースで仕事をしている。地元では新しい働き方を広めるべく複業も行っている。コワーキングスペースの運営も担当し、地方を盛り上げるイベント企画や活動も積極的に行う。個人では新しい働き方の実践者を集めたコミュニティを運営。2児の母。
石田
NewsPicksに入社する前から三重県に住んでいたのですが、リモートワークのおかげでいまの仕事を選べました。
櫻井
わたしは現在、新潟と出身地である埼玉で、週の半分ずつを過ごす二拠点生活をしています。
もともとは東京で働いていたのですが、社内起業をしまして、ゆかりのある新潟県内に支社を開設しました。企業の経営と成長をサポートしています。
櫻井茂樹(さくらい・しげき)。みらいコンサルティング株式会社 新潟支社長 兼 事業創造・みらいイノベーションセンターSHIBUYA(SHIBUYA QWS)担当。外資系会計事務所などを経て、みらいコンサルティンググループに入社。所縁のある新潟県内にみらいコンサルティング新潟支社を社内起業で開設し、週の半分ずつを新潟と埼玉に居住する2拠点居住実践家。11月1日からは渋谷スクランブルスクエアに開設された「SHIBUYA QWS」のBOOSTER OFFICEの一員として運営を手掛ける。
リモートワークが地域への愛着を持たせてくれた
竹内
まずは、リモートワークを始めてよかったことについて話ができれば。石田さんはいかがですか?
石田
以前の会社では通勤していましたが、リモートワークをはじめて通勤時間を削減できました。
なので、空いた時間を副業や趣味など、自分の生活ペースに合わせて有効活用できるようになりましたね。
櫻井
わたしは「地元だ」と思える地域を持てたことですね。
出身地は埼玉なのですが、埼玉は東京都内に通勤する人が多いので、地域への愛着や地域の人同士とのつながりが弱い。
わたしもその例外ではなく、地域に対する思い入れはあまり持っていませんでした。もしかすると「意味がわからなかった」という表現が正しいのかもしれません。
ですが、新潟で仕事をするようになってからは、地域の人とかかわる機会が増えました。仕事で「ありがとう」と言ってもらえたとき、地域に貢献できた気がして愛着がわきました。
竹内
確かに、地域で活動すると愛着がわきますよね。
わたしの場合、仕事だけではなくお祭りや消防団、自治会など、地域のコミュニティに参加していますが、こういった活動はその土地にいないとなかなか参加できない。
東京の仕事をしながら地域のコミュニティづくりに貢献できるのは、リモートワークならではのメリットだと感じます。
竹内義晴(たけうち・よしはる)。1971年、新潟県妙高市生まれ・在住。ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部 兼 チームワーク総研 所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業&週2日のフルリモートワークを実践している。
櫻井
そうですね。新潟でリモートワークを始めてから、埼玉でも、ただ時間を過ごすだけではなく、地域コミュニティも大切にできるようになりました。
竹内
そう考えると、現在住んでいる場所での人間関係を保ちながら、自分が暮らしてみたい地域で新しい関係を築いていけるのが、リモートワークの良さですよね。
働く姿を見た子どもが「早く仕事をしてみたい」と言うように
竹内
これまで仕事のお話を中心に伺いましたが、プライベートでは何か変化がありましたか?
石田
仕事をしている姿を、家族に見せられることですかね。
竹内
どういうことでしょう?
石田
わたしは家で仕事しているので、家族に対して仕事中の様子がオープンです。ビデオ会議中に、わたしが笑っている様子や仕事がうまくいかなくて悶えている姿を、家族が見ています。
ある日、仕事を終えて家族でご飯を食べていたときのことです。子どもたちが、「仕事っておもしろそうだね」「早く仕事してみたい」と言ってくれたんです。
竹内
それはうれしいですね。
石田
また、仕事の様子を見られているからこそ、気兼ねなく仕事の話題を家族と話せるようになりました。リモートワークだからこその経験だなと感じています。
リモートワークの寂しさの原因は「コミュニケーション量の差」
竹内
リモートワークをしていて、困っていることはありますか?
櫻井
ビデオ会議で、2つほどありますね。
1つ目は、会話に入りづらいことです。
たとえば、10人いる拠点とわたし1人でビデオ会議をするとき、画面の向こう側だけで盛り上がっていると、会話に入りづらいと感じてしまいます。
石田
ビデオ会議だと発言するタイミングをつかみにくいですよね。結局「まあ、いいや」と発言を飲み込んでしまいやすい。
櫻井
2つ目は、ビデオ会議が終わった後に、拠点の人たちだけで雑談が始まり、会話についていけないこと。
向こうはリアルで顔を合わせていますが、こちらはオンラインでしかつながっていないので、ビデオ会議後の会話を聞けません。
その後、雑談の続きでオンライン上のやりとりが始まることも多いので、わたしが把握できていない情報がいきなり登場して、さらに会話に入りづらくなるんです。
竹内
会話についていけないと寂しさを感じますよね。これはリモートワークならではの悩みですね。
石田
そう考えると、リモートワークの寂しさが生まれるのは、コミュニケーション量の差がメンバー間で生まれるからかもしれないですね。
竹内
会話をビデオ会議だけで終わらせず、チャットやグループウェアなどを使って、意識的に共有するような取り組みが必要そうですね。
直接会えないからこそ重要になる自己開示
石田
テキストコミュニケーションにも、難しさがありますよね。竹内さんは、工夫していることとかあったりします?
竹内
そうですね。僕の場合、テキストコミュニケーションで工夫していることが2つあります。1つは、「なるほど、あなたが言いたいのはこういうことですね」のように、解釈の確認を入れることです。
テキストのみだと、細かいニュアンスが伝わりづらく誤解が生じやすいので、「わたしには〇〇だと伝わっていますが、合っていますか?」と、自分の理解を伝えています。
櫻井
大切ですね。
竹内
もう1つは、語尾に変化をつけたり、話し言葉のように崩したりすること。
たとえば、「ありがとうございます」も、語尾にビックリマークをつけたり、「あざっす」のように崩したりしています。
テキストだけだと冷たい印象を与えやすいので、それを和らげるようなコミュニケーションを意識しています。
石田
わたしも絵文字を多めに使用し、オーバーリアクションを心掛けています。文字ってそっけなく受け取られることがありますよね。気持ちの良いやりとりをするために表現を工夫するのは必要だと思っているんです。
石田
あとは行間を読みすぎないようにしていますね。
リモートワークを始めた頃は、相手から届いたテキストの意図を「これ、テキストはこうだけど、本心はどうなんだろう?」と、必要以上に深読みしていました。
その結果、ネガティブなことを考え過ぎてしまって苦しくなったので。
竹内
わかります。直接会えないからこそ、そのような不安を自己開示することも重要ですよね。
櫻井
リモートワークをするようになって、リアルな場でのコミュニケーションの意識も変わりませんか?
わたしは東京のオフィスに行ったら、自分からあいさつするだけでなく「最近どう?」「元気?」と積極的に声をかけるようになりました。
リアルな場でお互いの人柄を理解できると、テキストコミュニケーションのハードルも下がります。結果的にオンラインでも雑談しやすい関係を築けるようになりました。
情報を流す場だけではなく、集約する場を設計する
竹内
コミュニケーションといえば、リアルも大切ですが、ツールも大切ですよね。みなさんは、どんなツールを使っていますか。
石田
NewsPicksでは、コミュニケーションはSlackなどのチャットツール、ビデオ会議はZoomとかGoogleハングアウトとかですね。
櫻井
うちはその他に、
お互いに称賛するためのアプリを使うなど試行錯誤を繰り返しています。
仲間への「ありがとう」を表現しあうことで、ポジティブなコミュニケーションが自然と増えるように工夫しています。
竹内
称賛するアプリはおもしろいですね。ところで、使用するツールが多いと、どのツールにどの情報が入っているか分からなくなりませんか?
櫻井
なりますね。クラウド上でファイルを共有しても、検索で見つけられないケースもあるので、難しさを感じています。
竹内
たしかに、
情報が流れてしまわないように、集約して整理するツール選びは大切ですよね。
たとえば、サイボウズ式では、
kintoneを使って、業務フローをマニュアル化し、みんなで最新の情報に更新できるようにしています。
情報を1か所に集めることで、誰もがいつでもどこでもアクセスできるし、情報を探す手間も省けています。
リモートワークで人とスキルが循環し、地域の未来が広がる
竹内
これまでリモートワークの困りごとやそれに対する工夫などをお話ししてきました。今後、リモートワークってどうなっていくと思いますか?
石田
リモートワークを導入することで仕事の幅が広がると思っています。趣味や副業の時間を確保しやすいからこそ、自分らしい生き方を選択しやすくなる。
その可能性を伝えるために、新しい働き方を社会人や学生に伝えるコンサルタントの仕事を副業として始めました。働き方によって広がる未来にわくわくしながら、今後も発信を続けていきたいですね。
櫻井
わたしは、リモートワークによって、心の豊かさが得やすくなると考えています。
二拠点で仕事するようになって、地方の課題が見えたり、さまざまな業種や立場の人とのつながりが増えたりしました。仕事以外の時間もより満喫できていると感じています。
竹内
確かに、リモートワークによって、仕事の幅や心の豊かさが広がりそうですね。
僕は都市部の人が地方の企業で複業する「地方×複業」に関心があります。いま、人材不足と言われていますが、リモートワークによって、都市との間で人の交流が生まれれば、地方にも未来があると思っています。
石田
リモートワーカー同士がつながって、もっとナレッジが共有されていくといいですよね。
櫻井
そうですね。
文:菊池百合子/撮影:加藤 甫/編集:木村和博(inquire Inc.)/企画:竹内義晴