20代、人事と向き合う。
どうしたら女性は働きやすくなるのか? 「女性の働きづらさ」から見えてくる、これからの会社と社会の課題──中野円佳×髙木一史
サイボウズ人事部の髙木一史は、「社員が閉塞感を覚えず、幸せに働ける会社をつくりたい」という想いから、初の著書となる『拝啓 人事部長殿』を2022年6月17日に上梓しました。
書籍ではテクノロジーを活用し、会社との多様な距離感・自立的な選択・徹底的な情報共有といった風土をつくることで、個人の幸せと会社の理想実現を両立できるのではないか、という仮説を提示。これを「インターネット的な会社」と呼んでいます。
この仮説をもとに、髙木がこれからの働き方について、多様な分野の方々と議論を交わす企画「20代、人事と向きあう。」がスタート。
今回の対談相手は、『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『「育休世代」のジレンマ』などの著書を持ち、長く「仕事と育児の両立」をテーマに執筆活動を行ってきたジャーナリストの中野円佳さん。「働き方の多様化が女性もたらす変化」をテーマに、語り合いました。
働き方の多様化で、女性も働きやすくなる
最初に思い浮かんだのが、大企業からサイボウズへ転職してきた女性社員の方から聞いたお話でした。
一方、サイボウズの場合、働き方を変更するタイミングで都度、業務内容や給与を個別でコミュニケーションして合意し直すため、「事務的な仕事に変える」という選択肢だけでなく、個別の話し合いの中で、「(企画系の)仕事の内容はそのままに量だけを減らす」という選択肢も提示されたのでよかった、と話していました。
大企業では育児休業からの復帰に当たり、仕事と子育て両立の観点から「過剰な配慮」が起こりがちです。その結果、産前よりもハードルの低い仕事やポジションを割り振られ、モチベーションが維持しづらくなるのはよくあること。
「仕事内容を変えない」など、ワーキングマザーのやりがいを高く維持するような適切な配慮が求められるのだと思います。
給与など条件面はそれほどよくなかったのですが、「元新聞記者なので、こんな価値を提供できます」と交渉して、希望に沿う条件で働くことができました。
テクノロジーの力で、現場のマネジャーを支援する
もし、このやり取りを紙やExcel、メール、電話などバラバラのツールでやっていたら、さすがにコストがかかりすぎます。
たとえば、ある社員が週4日の働き方を希望した場合、職場の人材マネジャーは、メンバーに対して新しい働き方でどのような業務内容をアサインするか、その役割期待の明確化にはじまり、貢献度に応じた給与金額の提示、リソースが週1日分減ったなかで、チームとしてどう成果を出していくかなど、さまざまな判断を迫られます。
そのため、最近では、社内の実際のマネジメント事例や働き方変更に伴う給与変更やコミュニケーションの事例を蓄積・共有できる社内アプリをつくっています。そのほか、マネジャー同士のコミュニケーションの場づくりなど、マネジャーを支援するための仕組みづくりもセットで行っています。
もちろん、これが1万人以上の規模になったときに、いまとまったく同じやり方でできるかと言われるとわかりません。ただ、テクノロジーの活用・仕組みづくり・風土の浸透の3つをうまく組み合わせていけば、もっと細かく一人ひとりと条件を合意していくことはできるのではないかと思っています。
「パートナーに家庭を任せて、滅私奉公で働く」はもう限界
ただ、そうすると女性は、配属される職域が限定されたり、昇進昇格にあまり縁のないキャリアコースに固定されたりする可能性もあります。
総合職は職務、時間、場所といった条件が限定されておらず、全力でのコミット(ハードワーク)が求められ、一般職などのいわゆる「コース別」雇用管理はそもそも実質的に男性に門戸が開かれていないことに加え、業務内容も事務的なものに限定されます。非正規雇用はそれに加えて、とても低い賃金で雇用も極めて不安定なものになってしまう。
こういった、それぞれの選択肢の間を埋めるようなマッチングの仕方が世の中では求められているのではないか、と。
でも、そういった人たちがぴったりとハマるような雇用管理のあり方は社会的にまだまだ少ないと思います。
仕事と家事育児を両立できるような選択肢がいま求められていることの裏返しではありますが、上の年代のような「家庭のことは女性に任せて、企業に滅私奉公する」という働き方そのものにも限界がきているように思います。
前提を変えることで、眠っている人材が活躍できる
また妻は転勤のある大企業に勤めているので、もし妻が転勤することになったら、僕の方がついていく予定です。テレワークという選択肢がなければ、僕は会社を辞めて専業主夫になるか、転勤先で転職活動をするしかなかったと思います。
たとえば、ヤフーが居住地を全国に拡大する人事制度を導入した結果、中途採用の応募者数が6割増えたというニュースがありましたよね。
そのニュースに対して、「その仕組みを魅力的に思う人が応募してくれたと思う」というようなコメントが報道されていました。ただ、わたしは単に応募できる人のパイが広がったという効果も大きかったのではないかと思います。
企業には「こういう制度があるから魅力的」というよりは、そもそも「眠っている人材が働けるよう、制度を導入しよう」という発想を持ってもらえるといいと思います。
育休などで一度仕事を離れて、キャリアが断絶してしまった方々の採用も視野に入れていたと聞いています。
※PSは裁量労働を適用し、時間管理は自己の裁量で任せられている。DSは短時間勤務。なお、現在では「100人100通りの働き方」の考えのもと、個別合意で働き方を決めている
そのため、どうしても全人格的な判断になってしまうというか、「この仕事だけお願いできればいい」というわけではないところも採用ハードルの一つになっているような気がします。
たとえばサイボウズでは、業務委託として副業でかかわるなかで、「お互いにうまく仕事をしていけそう」という信頼関係ができてから、サイボウズへのコミットを増やして無期雇用に転換した事例があって。
こんな風に個人が企業とのいろんな距離感を選べるようにしておくことは、セーフティな形での人材流動性を生むんじゃないかと思います。
でもとくに働き手側にとって交渉はハードルが高いので、すべての人ができることではないし、やりたいとも限らない。
自律的に交渉して希望の条件で働きたい人もいれば、交渉せず決まった業務を定時までこなす形で働きたい人もいる。そうしたタイプに応じた選択肢はあってもいいなと思います。
新卒社員の育成と異動への納得感をどう両立するか
最近「個の時代」とよく言われますが、フリーランスで活躍できる人って、大企業で下積みをしているケースが少なくないんですよね。
日本の大学はよくも悪くも職業に直結した即戦力を育てる場とは限らないなかで、自律的なキャリア形成ができる人材になるまでの間、一体どこが育てたらいいのか、と。
ただ、それって当人からすると理由もわからず、急に仕事を変えられてしまったように映るので、理不尽を感じてしまう。
僕は新卒で前職に入社した際に「人事は希望しない」と伝えていたのに、人事に配属になりました。
当時は驚きましたが、そこで経験を積ませてもらえたからこそ、いまこうして人事の本を出すことができているわけで……。
個々が納得感を持てるよう、長期的なキャリア形成についても、上司や人事と腹を割って話せるようになるといいですよね。
そうやって、他部署の仕事を部分的に分け合うような仕事の仕方ができれば、定期人事異動をしなくても、新卒社員を育てられる可能性があるのではないかと考えているところもあります。
一律で対応できないから、一人ひとりの声を取り上げる仕組みが大事
ただ、それはすぐに解決できるものではないので、現状において、いかにマイノリティが活躍しやすい環境を整備するかも大切です。
これまでの企業の両立支援策や均等推進策はマイノリティを押し上げて平等性を担保する支援が中心だったのではないかと思います。いまはそれに加えてマジョリティの意識改革が必要だと感じています。
そうしないと、気づかないうちに「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」が起こってしまう。
「日本社会は多様ではない」という前提のもと、マジョリティ側がマイクロアグレッションをしていないかを調査し、是正していく必要があると思います。
たとえば以前、kintone上で「育休明けの女性はみんな時給なの?」(※)というもやもやを吐き出してくれた方がいました。
もちろんそうではなかったのですが、そういう声が複数聞かれるようになり、正しい状態が認識されていないことがわかったので、人事があらためてコンセプトや現状を説明した、ということがありました。
※実際には育休明けの女性の約半数が月給。本人の希望や安定的に働けるかどうかを勘案し、双方合意の上で決定している
労働組合があったとしても、そこにいるマジョリティに不満を汲み取ってもらえないなら、うまく機能しませんから。
だから社内の施策として、マネジャーと本人に許可をとって、業務変更時の給与の減額幅や、チーム内で業務をどのように調整したかなど、情報をオープンにする取り組みをしているところです。
属性でくくってステレオタイプで人を見ることはできない。でも、そうなると、企業側も言ってきてもらわないと動けないし、気づけないところがあるのではないでしょうか。
本日はありがとうございました。
『拝啓 人事部長殿』(著:髙木一史)
トヨタを3年で辞めた若手人事が、「どうすれば日本の大企業の閉塞感をなくせるのか?」という問いを掲げ、その回答を手紙形式でまとめた1冊。12社への制度事例の取材、日本の人事制度の歴史、サイボウズの変革の変遷を学ぶなかで見つけた「どうすれば会社は変わっていくことができるのか?」「これからの組織に必要なものはなにか?」を提案しています。
執筆:石川香苗子 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
20代、人事と向き合う。
人事の仕事とはなんでしょうか? サイボウズの20代若手人事の髙木一史は、人事の仕事は「会社の理想と個人の幸福を両立させること」だと先輩たちから教わってきました。しかし、いま会社の理想も、個人の幸福も多様化し、唯一の正解を見つけづらい時代になってきています。そんな中で、これから会社はどう変わっていったらいいのでしょうか。6月17日に人事に関する書籍『拝啓 人事部長殿』を上梓した髙木が、若手なりの視点で掘り下げます。
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執筆
石川 香苗子
フリーランスのエディター、ライター。HR、ダイバーシティ、テクノロジー、マーケティングが得意。本業ではNewsPicksの法人事業「NewsPicks for Business」の副編集長を務める。