サイボウズ人事は「すべての多様性を受け入れなくていい」と伝えた。メンバー最優先のマネジャーが抱えた葛藤
働き方改革が大きな声でうたわれ、多様性が重視される時代。社員のさまざまな要望に応えるべく、人事制度はラインナップを「拡充する」ことがよしとするイメージがあります。
かくいうサイボウズでも、以前は多様な働き方を推進し、企業としての生産性と社員の幸福を両立するために「制度は変えるのではなく、増やす」というスタンスで施策を展開してきました。また、多様な個性を重視するメッセージとして「100人100通りの働き方」という表現を使ってきました。
しかし近年、サイボウズは「増えすぎた制度をシンプルにする」方向へシフトしています。
なぜ、世の中とは逆行する取り組みをはじめたのか。その背景には、制度と実態とのギャップから生まれた葛藤がありました。そこで、サイボウズの制度設計に携わる人事メンバーに、これまでのプロセスを聞きました。
コロナ禍の在宅勤務で見えてきた「すり合わせができていない」問題

僕は2017年にサイボウズに入社したのですが、ちょうど働き方改革が叫ばれ始めたころでした。『サイボウズ式』の仕事をしている関係で、僕自身も関連する記事の制作に携わりました。以前は「100人100通りの働き方」を前面に出していましたよね。


浅賀佑子(あさか・ゆうこ)。人事労務領域での実務経験を経て、2016年サイボウズの人事にキャリア入社。労務や人事制度の企画、運用構築に携わる。現在は、Workstyle Design部のマネジャーとして、引き続き働き方を中心とした人事制度の企画やアップデートを担っている



でもそれ以前は、フルで在宅勤務の人は少数だったんですよね?

いざみんなが在宅勤務になると、それまでは認識していなかった問題も見えてきて。


わかりやすい例では、メンバーが移住を決めたことを、後からマネジャーが知るというケースがありました。


しかし、事前のすり合わせが十分でないまま移住を進めてしまった……。コロナ禍で、急に在宅勤務へ移行したことも、要因のひとつとしてあると思います。


マネジャーは、メンバーの希望を聞くことが最優先になっていた





石川憂季(いしかわ・ゆうき)。2016年4月、大手建設会社に総合職として新卒入社。本社の人事部、財務部を経験したのち、2020年5月にサイボウズに人事として入社。現在はTalentSuccess部のマネジャーとして組織横断のタレントマネジメントや人材開発を担当。人的資本開示対応など人事施策の対外的な発信も担当している

チームとしての希望や期待を十分に伝えきれていなかった面もあったと思いますが、結果として、理想としているチームの生産性とメンバーの幸福のバランスが崩れているのではないかと、危惧するようになりました。




「社員は言うほど自律できていない?」現実と理想のギャップ



一方、青野さんが期待するレベルで自律できている社員はあまり多くないと思うんです。
わたし含めみんな、言うほどセルフマネジメントできるわけではないんじゃないかと。


竹内義晴(たけうち・よしはる)。サイボウズ式編集部員。「週2日フルリモート複業社員」としてサイボウズのマーケティング・ブランディングに関わりながら、NPO法人しごとのみらいを経営。組織づくりや人材育成にも携わる


社員が自律して何かを決めようと思えば、みんながわかりやすいことばで理想が言語化され、それなりに整理された仕組みや情報がないと難しいでしょう。だから「100人100通りのマッチング」の基本となるポリシーなども整備しました。

「多様な個性を重視」するという基本は変わりませんが、尊重ではなく重視なので、状況によっては、理想の実現のためには、チームとして受け入れられない多様性もあるはずですから。

たとえば以前、海外からリモートワークを希望する声がありました。しかし、対応に伴うコストやリスクを踏まえると、現時点では実現が難しく、結果としてマッチングに至りませんでした。



互いに希望を伝え、すり合わせて、マッチングの努力を続けていく。そんな前提を理解していただきたいという思いを込めています。
人材採用難時代に「サイボウズの人事制度が減っている」理由

以前のサイボウズでは、多様なニーズに合わせて、人事制度を「変えるのではなく、増やす」スタンスだったと思うんです。でも最近では制度の数はむしろ減少傾向ですよね。
他社では人材採用や定着率向上のために制度を増やしているケースも多いですが、なぜサイボウズは逆の方向へ進んでいるんですか?



でも実際には、それこそ多様な人が集まっているわけですから、仕事やプライベートの事情は人それぞれですよね。それなら、あらかじめターゲットを限定した制度を運用するより、それぞれの多様なマッチングを広くカバーできる制度に集約すべきではないかと考えているんです。

でも、サイボウズとしては結婚自体を特別に奨励したいわけではなく、「結婚した人だけ休めるのもおかしい」と考える人もいるでしょう。
そこで見直しを進め、さまざまな目的に対応して統合的に休める「プロアクティブ休暇」に制度をリニューアルしました。


もともとは「この資格を取るならいくら支援」「英語学習にいくら支援」といった制度があり、対象の資格も一覧にしていたんです。
一方、社内では「学習に必要な書籍購入を支援してほしい」「動画学習ツールの活用を支援する制度もほしい」といった声が上がっていました。そこでいまは、年間12万円まで学習に必要な費用を総合的に支援する制度に一本化し、マネジャーへの申請を経て活用してもらえるようにしました。
キャリアだけじゃなく、自分の生き方そのものを考えてほしい

とても合理的だと思うのですが、他社でこうしたやり方を取るところが少ないのはなぜでしょうか?

もちろんわたしたちにもそうした懸念はありますし、発生するコストも考えなければいけません。でもそれ以上に、実現したい理想が勝るんですよね。
大前提としてわたしたちは、個々人が自律し、自分で考えて動ける組織でありたいと思っています。だからこそ、いろいろな目的を包含する制度であるべきだと。




それでも、どんな働き方をすれば自分はすこやかで幸福でいられるのかをみなさんに考え続けてほしいです。それが、キャリアだけじゃなく、自分の生き方そのものを自律的に考えることにつながりますから。

だけど、自分の生き方そのものは、本来会社に決めてもらうことではないはず。自分の幸福に向き合い続け、希望を伝え、チームの理想とマッチングしていくべきではないでしょうか。
そんな理解を広げて、サイボウズが理想とする「自律したメンバーとチームの関わり」を実現していきたいですね。
企画・編集:竹内義晴(サイボウズ) 執筆:多田慎介 撮影:高橋団(サイボウズ)
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執筆
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。2026年からサイボウズ式編集長。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。
編集
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。