当選回数8回キャリア23年の衆議院議員である野田聖子さんとサイボウズの青野慶久社長には、両夫婦とも「妻側の姓」に夫が変えたという共通点がありました。野田さんはプライベートでは一児の母であり、女性の活躍や少子化対策にも熱心に活動されています。
前回に引き続き、サイボウズ ワークスタイルドラマ「声」(ドラマは公開を終了しました)を見て、夫婦コミュニケーションや子育てについて語る、対談連載第2回目(全3回)。 今回は、男性育休、夫婦別姓そして配偶者控除など、具体的な社会制度や政策について引き続き活発なやりとりがつづきます。
男性育休を罰則規定し出世の条件へ、男性の見えざるハードルを潰していく
僕らが宮崎元議員の件で気にしていたのは、あれで育休を取得できる社会への流れが止まると嫌だなと。「やっぱり男性育休はだめだ」なんてそんな風潮が出ないようにと思ったんですけれどね。
私も今回の件に関連していろいろインタビューを受けましたけれど、「私はずっと以前から育休の必要性を訴えてきたので、この考えは変わらないよ」って話しています。育休はこれからの「男の義務」なんですよと。
そこはもう義務で通していくと。特に子どもが生まれた直後なんかそうですよね。
父親の育休は当然なので、罰則規定を設けてもいいと思っています。現在、常時雇用している労働者数が100人を超える企業に対し、障害者雇用の法定雇用率が設定されており、達成してない企業からは納付金を徴収するという障害者雇用納付金制度があります。それに類するような罰則です。
女性に本当に働いてもらおうと思っているんなら、男性側の育休は「義務」と考える。
私は政策の中でも「パパ・クォータ」を推しているんです。育休を国で認めた期間があるんですけれど、今はこれ基本的に父親か母親のどちらかが取得するというルールになっている。
4分の1は夫が取得すべし、もし夫が取らないんだったら妻の分の4分の3しからあげないぞという仕組みですね。これって新しく予算もつけなくていいし、こうやって義務化すると男も取る理由ができていいですよね。
要するに、パパたちは、上司に睨まれるから取れないんですよね。上司に文句を言わせなくするには、その担保は法律しかない。
法律で決まっていると、「いや私たちは法律で夫婦の育休のうち、4分の1は男が取得して休まなきゃいけないんです」と言い返せる。男って法律のような大義名分がないとなかなか行動に起こせない部分がありますよね。
過剰反応して逆に頑張りすぎたりもしますけれどね(笑)。私たちは若き男性たちを支えたいと考えているんですよ。女性だけじゃなく、パパになる喜びを味あわせてあげたい。女性は赤ちゃんがおなかの中にいる実感で親になる喜びはわかるけれど、男性は愛おしさを感じる機会が少ないと思うから。
企業経営では、「経営者は現場を知れ」とよく言うんですよね。それって、自分の役職のところだけ見ていたら全体が見えなくなるぞというたとえなんです。
パパの育児もまさにそうで、ママの苦しさをそこで一回味わっておくと全体のマネジメントもしやすくなるから、そこは義務で見とけと。そんなふうに経営や仕事にたとえて説明すれば、結構男は納得しやすいかなと思います。
価値観の上での障壁であるとか、男の人の見えざるハードルを潰していけばいいんですよね。一番は上司。自分が育休を取ってこなかった上司が「女々しい」とか言うのは、法律で罰則規定を作れば解決できる。
私は男じゃないから分からないんですが、あとは何が障壁なんでしょう? 取りづらい? 取りたくない? めんどくさい?
(しばし熟考)……。男女のジェンダーの役割分担の概念が足かせかもしれませんね。義務教育でも、男子は図工か技術で女子は家庭科でっていう時代に育ちましたから。
例えば、うちの6歳の長男が生まれたときに育休を取ったんですが、僕と息子とで平日の昼間に区の施設へ遊びに行ったんです。当たり前ですけどママと子供ばっかりで、めっちゃ居心地が悪いんですよ。
国会における女性議員みたいなものですね。
そうですね、逆の立場で(笑)。もう遊びの輪に参加できないんです、ママさんの目が気になって。男の人なのに子どもとフラフラしていて、あの人大丈夫かしら、働いていないんじゃないのと……。いや、ぼく育児休暇中で、となんだか言い訳がましくなってしまう。
武蔵大学の田中俊之先生が「平日昼間問題」って呼んでいるんですが、平日の昼間に男性が育児をしている姿が周りから結構なプレッシャーをまだ受けるんですよね。
そういう人はこれまでの世の中では失業者であることが多かったからですね。
そうなんです。だからそこは、「あの人だめなんだ」と見られるよりは、拍手されて「あなたすごいですね」と褒められるような感じになると自信を持っていけますよね。
どうしたら褒められるようになるんだろうなぁ。大企業は役所に倣う部分があるでしょう。私が財務省や厚労省に言っているのは、事務次官になる条件の中に、「ある程度育休取得していること」を要件として入れればいいのではないかと。内閣人事局で規定を作ってほしい。
役所が変わると、企業も右に倣えで取り入れ始める。不思議と日本って変わるでしょう? どうにかしてできないかな。
そうすると女性も夫に、「あなた出世するために育休とりなさい」って。いいですね、もう一息ですね!
最高裁判決のおかげで「夫婦別姓は立法府の仕事」と、やっと国会にボールが来た
私の認識では、野田さんの旦那さんは家事育児をしっかりされているんですよね。
夫は息子の保育園の送迎、食事、ほぼ全て完璧ですね。後は掃除を時々です。
今日は、個人的な興味のあるところで、夫婦別姓についてもうかがいたいです。
夫婦別姓問題とは
現在日本で焦点になっているのは、婚姻時に夫婦どちらか一方の姓に揃えなければならないとする”夫婦同姓”の見直し。先進国では稀な夫婦同姓制度を守る日本では、慣習的に女性の側が男性の氏に改姓するケースが96%に及んでいる。
パスポートや運転免許証、銀行口座や資格証明書など、日本社会では原則戸籍名で表記しなければならないものがたくさんある。結婚後も仕事上の便宜性から旧姓を引き続き名乗りたいとする女性が、暮らしのあらゆる場面で不便を強いられることから、夫婦同姓は現代社会にそぐわない制度であるとして、90年代以降「結婚した時に夫婦同姓か別姓かを自由に選択できる」とする選択的夫婦別姓の導入実現が望まれ、社会的な議論が重ねられてきた。
しかし2015年12月、事実婚の夫婦合わせて5人が「夫婦別姓を認めない民法の規定は憲法違反」として、日本国政府に対し損害賠償を求めた訴訟で、最高裁判所大法廷は、民法の規定を合憲とする判断を示し却下。民法改正の動きは頓挫したとして、大きな社会的反響を呼んだ。
2016年には国連女性差別撤廃委員会が「実際には女性に夫の姓を強制している」として、選択的夫婦別姓制度導入のための民法改正を求める再度の勧告を行っている。
別姓、私も一生懸命取り組んでますよ。昨年、「夫婦同姓は男女差別にならない、憲法違反ではない」と最高裁判決が出て、別姓推進派は敗訴になったわけですね。婚姻届は両性の合意で出すものですから、一方的に女性が強制されているわけではないと。
でも夫婦同姓一択であることで不利益を受けている夫婦、もしくは女性がたくさんいるんです。私としては、この最高裁判決によって、いわば「立法府で法律を変えるべし」とのボールが立法府へ送られたのだと受け止めています。最高裁判決を根拠、確たる軸として、言われたらやらなくちゃと。
なるほど、前向きに取り組むための理由ができたわけですね。
今までは別姓を掲げる「夫婦別姓愛好会」のような人たちが活動していましたが、なかなか進まず立ち消えになってきたわけです。しかし、今回はきちんと立法府である国会にボールが投げられました。
1月には公明党・山口那津男代表がついに衆議院本会議で「国会で議論を深め、時代に応じた立法政策を決めていくのが政治の責任だ」と発言しましたね。
そうなんですよ、代表が発言したことに驚きました。夫婦別姓への流れがついに進み始めたという感想を持っています。
自民党内では、現政務調査会長の稲田朋美さんは「(夫婦同姓規定合憲は)合理的な判決だ」として、個人的に反対のスタンスを取られていますが、党全体としてはちゃんとやらないとまずいですよ、というお話はしてきたんです。
私が夫婦別姓派の人たちを紹介して、まず会って話を聞いてみてください、そこから始めましょうと申し入れしてきました。私はこの孤独なバトルを当選後23年やっていて、”夫婦別姓岩窟王”と呼ばれてるんです(笑)。
それはすごい(笑)。私も旧姓が「青野」で、15年前に結婚したときに妻の姓の「西端」に変えたんですが、会社の登記ですとか、まあ不便なこと。
うちの夫もそうなんですよ。「野田」という私の姓に変えまして、不便だとめっちゃ怒っています。夫は結婚当時、青野さんほどじゃないけれど小さなIT会社をやってました。今はだいぶ制度も緩くなってきたとの話ですが、以前は相当ひどい目に遭ったと。
結局、中途半端なんですよね。パスポートは本名じゃないといけないけれどホテルは通名で可、だとか。使い分けるのが不便です。
「通称使用が拡大したからいいだろう」と最高裁が言っていたけれども、それが逆に不便ですよね。ここだけは本名にしろとか、ところどころ引っかかるのでシームレスじゃない。
それにしても、23年間とはすごいですね。今では国連加盟国で夫婦別姓の選択肢を持たない国で残ったのは日本とジャマイカだけ、みたいなことになっていますよね。ぜひこれは進めていただきたいです。
最高裁判決を受けて、別姓推進派の皆さんや、特に弁護士さんなどは深く落ち込んでいましたけれど、私はむしろやっと堂々と訴えていける大義名分を最高裁からもらった気分です。
青野さんも、ぜひいろいろな方面の人と協力して発起人になってください。
いいですよ! ついに波がきたと思っています。
僕が夫婦別姓を唱えているのは、「96%の女性が婚姻時に苗字を変えていることに引っかかりを感じているから」です。もしそこが50/50だったらこんなに問題にならないのに。
もし50/50だったなら、男性の方から夫婦別姓に賛成意見が出ますよ。夫婦別姓は男性のほとんどがスルーする話なので、問題意識すら生まれていないんですよ。
法律が成立しないのは賛否が拮抗しているからだと思ったら大間違いで、国会では関心が低くて、話題にならないからなんです。改姓の不利益を受けているほとんどが女性なのに、国会議員の約9割は男性ですから。
しかも、職業柄苗字を変えることで利益を受けた人のケースだけは見聞きしていることから、苗字を変えることはメリットしかないと勘違いしている人も多いんです。(一同笑)
もう慣習化して、見方が固定してしまっているんですよね。
でも、最高裁からのボールがきましたから、もう関心が無いなんて言っていられない。結論を出すのが立法府の「義務」になったんです。
いいですね。夫婦別姓が進めば、固定したまま長く続いてきてしまった「男女の役割分担観」や「日本の家庭こうあるべき」みたいなのが、いろいろあっていいんじゃないのという感じに変わっていくのでは。
女性の活躍の阻害要因、もう一つは専業主婦のお値打ち感のシンボル「配偶者控除」
私は、「女性の活躍」と本当に言いたいなら、2つの阻害要因を取り除くべきだと思っています。1つが「夫婦同姓の強制」、もう1つが「配偶者控除」です。
配偶者控除は、もうほとんど本来求められた機能を果たしていないんだけれど、専業主婦のお値打ち感のシンボルになっちゃっている。その2つの旗を降ろせば、政権は本気だと受け取ってもらえるのではないかと。政権がいろいろ言いながらもこの2つが依然として残っていると、どこか社会が疑心暗鬼になってしまう気持ちも分かるんです。
たしかにこの2つ、ずっと変革を求められているのになかなか変わらずに続いているものですよね。配偶者控除は、いまどのフェイズですか?
事実上は所得税で調整されていて、控除としての効果は決して大きくないのだけれど、やっぱりそれを理由にパートの人は働き方をセーブするし、時給の高いところの事業者はそれを理由に雇い止めするんですよね。あれは高度経済成長期の役割分業に必要な制度だったわけですが、今ではもう役割分業はマイノリティですから。
そうですよね、今は共働き家庭のほうがずっと多いのに。
自民党の保守を掲げる議員の中には、「男たるもの妻を働かせないのが甲斐性」といった道徳観念がいまだにあって、配偶者控除の見直しはそれを否定することになるので改革を嫌がります。
法律という合理性で進めるべき議論を、観念論で考えているんですよね。まったく合理性なんてないのに。
まだ説得に時間がかかりそうですが、なんとかその2つを倒したいですね。
倒しましょう。
第3回 長時間労働の男性と同じ、子育てに疲れている人には100のなぐさめより2時間の休息につづく
文:河崎環/写真:谷川真紀子/編集:小原弓佳
カテゴリー: サイボウズ, ワークスタイル, 働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。