当選回数8回キャリア23年の衆議院議員である野田聖子さんとサイボウズの青野慶久社長には、両夫婦とも「妻側の姓」に夫が変えたという共通点がありました。野田さんはプライベートでは一児の母であり、女性の活躍や少子化対策にも熱心に活動されています。
前回に引き続き、サイボウズワークスタイルドラマ「声」(ドラマは公開を終了しました)を見て、夫婦コミュニケーションや子育ての経験談、子供を産み育てやすい日本にしていくにはどうしたらいいのか、活発な議論が進むこの対談。連載最終回(全3回)には、保育園行政やベビーシッター制度、法律の削減など、野田聖子さんとサイボウズ青野社長の二人が取り組む日本の子育ての近未来図が示されました。
第1回 私は安倍総理に「育児と仕事の両立は無理」とはっきり言った、女性はもっと「できません感」を出そう
第2回 「男性育休」「夫婦別姓」「配偶者控除」、なにが女性の活躍を阻むのか
新しい保育園の形は「教育の場」、子育て界のUber(乳母)であるベビーシッターに期待
少し前に保活の結果が出て、保育園の当落が発表される時期でしたよね。「保育園落ちた日本死ね!!!」がかなり話題になっていますが、でも保育園作れば改善するって話でもないんですよね。
保育園という箱を建てるのは大変だから、ベビーシッターとか小規模保育とか、もう少し多面的に支援しないと。保育園が建つのを待っていたらなかなか解決しないよ、進まないよと。
私は保育園に関しては二つ考え方を持っているんです。一つは、中長期的にこの国の将来を考えると、0歳の間は1年間育休を取るとしても、1歳や2歳の幼児教育と言われるものは義務化したほうがいいのでは思います。
まず働いていない人や求職中のお母さんが、保育園に子どもを預けられないところからしておかしいわけです。そういうことが起こっているから、保育園に入れる入れないで問題になってくるんです。家計が貧しいとか、ご主人が亡くなって「働かなければならない」女性が働く間、子どもを預けるための一時的な措置の場所を国が用意する。それがかつての保育園ですから。そういう、昔の保育園の役割は終わっているので、新しい保育園の形を目指していかなければいけないんです。
政府が全ての女性に働いてほしいと願っているのだから、「預かってあげる場所」ではなく、むしろ子供達の教育の場としてリニューアルせねばならないと思います。
なるほど、教育の場であるということですね。
そうです。教育の場は幼稚園だけに限定していてはいけない。フルタイムのお母さんが幼稚園に預けるのは現実的ではありません。
なるほど。
もう一つは、働き方が多様化する中で、女性にはずっと継続的に労働できるわけではなく、妊娠・出産・育児によって休職や求職期など、就労の不規則さが生まれてくる。
仕事に就いていない間も預けられるようにしないと、親の都合で「仕事をしている時期は預かります。でも辞めたら自分で面倒を見てください」となるのでは、子どもの社会性が途切れてしまうわけですよね。そういうことを子どもに対してしてはいけない。
だから近い将来には1歳から子どもの保育を義務化すべきなんです。そうするとすべての人が保育園なり幼稚園に行かなければいけなくなる。
うーん、なるほど!
少子化ですから、一人でも多くの子どもが早くから家庭の外での教育を受けることで、将来の人口減少による数を質で補うことが可能になるのではないかと。あとは虐待も防げますよね。初期の発達障害なども、毎日の通学や学校検診などで早期に見つけることが出来る。
そうですね、必要ですね。
今、5歳児の保育料無償化が始まっているけれど、無償化というのは常に与野党の論争の場になるんですよ。「バラマキだ!」と。だったら義務化してしまえばバラマキっていう議論は収まるんです。
なるほど、無償化じゃない、義務だとするんですね。
早くやりたいですね。旧小学校校舎など、空いている場所もあるんだから有効活用したい。一旦義務化すると、市町村は一気呵成に突貫工事でやりますよ。今は任意だからなかなか進まないんですよ。
そのへんいろいろ理由つけて言い訳する自治体も多いです。
空き家対策で小規模保育などの場所もいくらでもある。でも行政は動かない。本当に難しいよね。短期的にはベビーシッターを活用することが対策として1番早く実現できるかなと思います。経費を税制上認めると。
いま、ベビーシッター費用は控除対象ではないんですよね。
税制改正などで経費として認めたらいいんです。そうすれば、当面保育園に入れない間はシッターさんという選択肢があれば、すごく効果的だと思うんですよ。小規模保育なんて言っても、結局は厚労省の審議会で議論が止まることは目に見えているから。
確かにベビーシッターは機動力がありますね。トレンダーズという企業を当時女性最年少で上場した経沢香保子さんという女性経営者が、最近ベビーシッターサービスの新会社「カラーズ」を立ち上げられたんですが。
ベビーシッターって資格がいらないですよね。身内で経費が払えるんだったらそれも良しじゃないですか。大学生の姪っ子に、とか。アメリカはそうですよね。近所の子どもにベビーシッターをお願いしたり。
そうですね、フランスでもベビーシッターを柔軟にうまく使っているという話があって。
なぜかというと保育士のなり手がいないからですよ。せっかく保育所の箱を作っても報酬が低くて生活していけない。資格はあるけれども保育士にはならないという潜在保育士がいっぱいいるんですよ。だからむしろ保育士の免許を持ってシッターさんになった方がやりやすいんじゃないかな。
それってタクシーのUberみたいですね。タクシー会社に勤めるよりUberに行った方が実入りがいいという。
そうですね! 同じウーバー(乳母)でいいじゃないですか(笑)。あとはそれで経費が控除対象になると、ベビーシッターが一番早い対策になりますね。
いいですね、面白い。政策のステップが見えてきましたね! 私にもできることがあれば言っていただければ。
経済界の人で審議会や行政改革にいる人とか、そういう人に話してほしいですね。
私もまさに厚労省に呼ばれて会議に出てるんですが。
厚労省いいじゃないですか。そこから税制改正要望を財務省へ上げてもらうんですよ。今も塩崎恭久大臣がシッター負担の税制改革を精一杯進めてくれているんですけれど、富士山でいうと5合目までやっときたかなといったところです。塩崎さんに何やったらいいですかって聞くと、教えてくれると思いますよ。
わかりました。そこで推していきますね。
たった1ヶ月に1日、外に出て子供と離れるだけでも相当リフレッシュできる
「ワークスタイルドラマ」について、いま一度ご意見をうかがいたいのですが。私たちが作った思いとしては、男性ってなかなか相手の立場に立てずに自分の思いが出てしまって、すれ違うことがあるよねと。
制度面で後押ししていこうという以外に、感情面で男性がママの気持ちに寄り添う上で、何か心がけるべきことはありますか?
私はまさに男側の立場なんですけれども、逆に育児の中心にいる夫の気持ちに立つために気をつけているのは、配偶者が育児に疲れているときは、言葉じゃなくて、もう思い切って休んでもらうことが一番だと思っています。
私が心掛けているのは、本会議等の日程ではない限り、月曜日には公務を入れずに休むことです。そこは夫のためにとっておこうと。月曜日は息子の病院に一緒に付き添うとか、夜は夫を外に「どっか飲みに行っていいよ」と自由な時間を作るんです。それが一番効くみたいですね。
言葉でなく行動で、ということですね。
子育てで疲れ果てているときは、言葉を聞く余裕なんてないですよね。でもたった1ヶ月に1日、外に出て子供と離れるだけでも相当リフレッシュできるんですよ。それは男も女も一緒だと思う。どうですか、青野さんも奥さんにそういう日をあげていますか?
うちもありますよ。でも妻は「ちょっと髪切ってくるから2時間見といて」って言いながら5時間位帰ってこないです(笑)。
今うちの夫は「どこか行っておいでよ」と言っても夜10時くらいに帰って来ちゃうんです。でもすっきりして、翌日から笑顔が戻る。100のなぐさめよりも2時間の休息ですね。それも子どもといたら休まらないから、子どもと離すこと。
長時間労働の男性も近いところがありますね。あれも仕事から離れないから、リフレッシュしないんですよね!
長時間って一番生産性が上がらないと思う。日本って一番先進国で生産性が低いって言われているでしょ。身も心もクタクタで良い仕事ができるわけない。
夜10時過ぎに書くメールなんて、1通書くのに1時間くらいかかっちゃって、いわばマラソンの最後の状態ですよ。
そうそう、テンションだけ高くってね。空回りしてね。
あとで見るとろくなこと書いてない(笑)。
「働き方改革」まずは官僚から、無駄な法律・無駄な会議……日本の政治にデトックスを
限られた時間の方が集中して仕事ができるんですよね。私も今、かつて朝から晩まで働いていた時代に比べて数倍の仕事をしています。私はそれで結果を出せば、経団連の方々もフレックスや時短という働き方を認めてくれるのかなと思っています。
例えば朝の会議はいらないですよね。特に国会の本会議は書類を延々読むだけで、基本的にやりとりは一切なし。民間ではあり得ない。
びっくりしました。読むしかしないんだ、と。会社じゃ考えられない。掲示板に貼って終わりです。
自民党の各部会も無駄が多いです。原理原則で言うと、法律は国会で作るんですが、実際は役所で法律の案が作成されます。そして、役人が作った法律の説明を国会議員が部会で聞くわけですが、朝8時にご飯を食べながら聞いています。残念ながら短時間で理解することは出来ません。ま、早朝から頑張ってますというアピールにはなりますが。
ワークフローで申請するとしたら資料を添付して2行で済みますよね。
時間だけ使ってほぼ役に立っていないのです。むしろ、国会議員の仕事として自分で法律を作ればいいと思う。人の作った法律に注文を付ける時間があるなら、自分で国民の意見を聞き、問題意識を持って立法府として法律作ってほしい。
昨年、総務省に働き方改革をしたいからと呼ばれて、アドバイザーになったんです。話を聞いてみたら、私から見ると仕事の無駄な部分を省けるんじゃないかなというところが多い。
ところが、私が「これいらないでしょう」と指摘したら、それが必要な理由を説明するんですよ。多分ノルウェーの官僚だったら、定時に帰って国をもっといい国にしてるぞ! って。そこ削ろうよと言いたい。
官僚は言い回しの天才だから。官僚の働き方を変えるには、まず法律を減らさなきゃならないんですよ。要らない法律がレガシーとして積み上がっているんです。もう時代遅れの法律でも、いざという時のために取ってある。そしてそこにも担当が付くから仕事が増えるんです。
そうなんですね! パッチワークみたいになっていて、まるでプログラムみたいですね。なくなればメンテナンスしなくていいのに……。
法律にも古いものがあるんです。今度、児童福祉法の大改正があるんですけれども、違反行為の中に「満15歳未満の児童をサーカスで働かせる」という内容があるんです。未だにそういう内容の法律が残っているんです。
ビルドばかりでスクラップが進んでいない。その一方で行政改革によってどんどん人員は減らされていくのに法律は増えていく。
なるほど、デトックスが必要ですよね。
内閣府が一番大変な状態です。一つの省だけでは取り扱えない問題や議員提案を内閣府で引き受けるんだけど、ありとあらゆる法律が積まれてしまってパンク寸前です。内閣府はすごく小さい役所で、一人の官僚が交通安全や自殺対策や災害対策などの全然違う分野を全部担当している。本当に仕事になってるのかな。
また、議員提案の場合は、作った議員が選挙で落選したりすると、その後のケアが難しい。例えばLGBTなどの新しい考え方は役所では出来ないと言って議員提案になるんですが、そういう議論が社会になじんできたら役所に移していかないといけない。そのために役人がいるわけですから。
なんと、そうなんですね! ネットで公開して、みんなに投票してもらって、「いらない法律捨てる会議」したらいいのになぁ。
そうしたら無駄な法律がなくなりますよ。今、現行法令が27,000くらいあるのかな。
いやはや27,000ですか、すごいな(笑)。ずっこけるほど昔のもあるんでしょうねぇ。その辺にも民主化が必要ですね。
アメリカと日本の法律は少し違うんです。日本の法律はとても厳密なんですが、アメリカの法律は例えればガイドライン。それで、アメリカではこういう法律ができたと聞くと、日本はそれを基に厳格な法律作ったりするんですよ。環境関係などはとくにそうです。
ガチガチのやつを作っちゃうんでしょうねぇ。それはまたメンテナンスが大変になるな。ガイドラインなら方針だけだから楽なのに……。面白いですね、勉強になります!
今、日本を変える活動に本気で取り組んでいる人たちがいます。僕なんて起業して上場して、ある意味安定した土壌があってやっていますけど、フローレンス 駒崎弘樹さん、ワークライフバランス 小室淑恵さん、ファザーリングジャパン 安藤哲也さんら、皆さんお金にならないこともすごく頑張ってくれています。でも、理解に苦しむ国の活動もまだまだ多いのが悩みです。
子どものいる家は、朝はバトルじゃないですか。以前、朝の出勤を通常の1~2時間早めることで残業をせずに帰宅をし、夕方の時間を家庭サービスや趣味の時間に充てようという「ゆう活」の推進があって。全く子育てを理解できていないなと。
あれを見て、みんなでずっこけましたもん。
ああいうのを平気で考えてくるんですよね。内閣府はおじさんが多いから朝が早いのよ(笑)。
そうか、おじさんだから!(一同笑)
きっと家にいても子育てをしてこなかった人が多いだろうから。知らないのよ、朝保育園に送るまでがどれだけ大変かって。それを知っていたらあれは非現実的であげる気にならない。
「若い人は朝出られないでしょう」って指摘したら「大丈夫、免責ありますから」なんて笑ってスルーされちゃったけど、違うでしょ。若い人が朝の始業時間に出られないことで、自分の出勤が遅いと感じて悩むわけでしょう。それで「ゆう活」を取り入れたけど失敗だったっていう顛末。それをある会議で安倍さんにナンセンスだと言ったら、「安倍と野田が対立」ってメディアに言われちゃったの。
そうだったんですね、でも安倍さん、3、4年前とはだいぶ軌道修正していませんか。野田さんが耳元でずっとささやいたからですか。
私が怖いからかな(笑)。私が言ったことはどうにかやらなきゃと思ってくれればいいね。
今話題になっている同一労働同賃金は、昨年の総裁選の政策にしようと思って、実は私が言い出していたんです。でも総裁選に出馬ができなくて、代わりに安倍さんの側近に政策集を持って行ったら、急に安倍さんが言いだした。
そういうところは柔軟なんですよね。もともと社労族ですから、自分の保守としての考えとは別に政策を考える柔軟性がある人です。私も、よもや安倍晋三総理が同一労働同一賃金を言い出すとはと驚きましたけれどね。
そうだったんですか、安倍さんも軌道修正されているんですね。
30年の政治生活の中で、国会議員を23年務めていて、そして大臣も3度経験してますけど、それらよりも育児の方がはるかに大変なのは事実です。私はそれを伝えるメッセンジャーだと思ってます。
面白いですねえ!
今度私がチーム作ったら、青野さんも民間代表で入ってください。
ぜひぜひ!
完
文:河崎環/写真:谷川真紀子/編集:小原弓佳
カテゴリー: サイボウズ, ワークスタイル, 働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。
タグ: サイボウズ, ワークスタイルドラマ, 野田聖子, 青野慶久