仕事ってもっと楽に考えてよかったんだ
複業をはじめて4年半。「どうやってはじめればいいんですか?」──実践者40人に意見を聞いた
地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る「長くはたらく、地方で」。今回のテーマは「複業のはじめかた」について。
政府の副業・兼業解禁やコロナ禍によるテレワークの拡がりで、ずいぶん浸透してきた複業。また、45歳定年制がまことしやかにささやかれる中、複業は「未来のキャリア」の選択肢を広げる1つであることは、どうやら間違いなさそうだ。
だが、そのはじめ方はベールに包まれていて「これ!」という指針がない。そのため、「どうやってはじめたらいいのだろう?」と思っている人もいるだろう。
そこで今回は、実際に複業している約40名から意見を聞き、「複業のはじめかた」をひも解いてみたい。
わたしが複業を知ったきっかけは「SNSを見て」
わたしがサイボウズで複業をはじめたのは2017年5月。約4年半の月日が経った。
当時は「新しい」「これからの働き方」だといわれたが、最近では「わたしも複業やってます」という人と出会う機会が増えた。ひょっとしたら、これをお読みのあなたも、関心がおありかもしれない。
そこでまず、わたしがサイボウズで複業をはじめたきっかけについてお話しよう。個人的な話になるが、少しだけお付き合いいただきたい。
わたしが複業をはじめたきっかけは、2017年1月に、SNSのタイムラインで偶然見た、サイボウズ式編集長 藤村のつぶやきだ。
サイボウズ「で」複業をしたい人を募集する取り組み。本業は別に持って、複業でサイボウズの仕事。こういう形態の採用をする企業がもっと増えてほしい! / 「複業採用」を開始サイボウズでの仕事を複(副)業とする...https://t.co/bNTYL82DqM #NewsPicks
— 藤村 能光 (@saicolobe) January 17, 2017
「複業採用? なんだろう?」と思いながら、SNSに書かれたURLをたどっていくと、複業採用のページを発見。
そこには、こう書かれていた。
ワークスタイルや契約形態に関係なく、理想でつながり、一緒にチームワークあふれる社会を目指す仲間を増やすため、今の仕事を続けながら、サイボウズでの仕事に興味を持っていただける方を募集しています。
わたしは、この「チームワークあふれる社会を目指す仲間を増やす」という理念に、とても共感した。
複業をはじめたきっかけは「理想への共感」
なぜ、共感したのか。それには理由がある。
わたしはかつて、中堅のSIer(顧客から依頼を受け、情報システムを設計・開発・保守を行う会社)で、技術肌のプログラマーとして働いていた。コードを書くことに何よりも幸せを感じており、「生涯エンジニアでいたい」と思っていた。
しかし、年齢を重ねると「お前もそろそろマネジメントやれ」といわれるようになる。管理職になるのだけは絶対にイヤだ。そこで、転職を決意した。
しかし、転職先で待っていたのは「ストレスをかけるマネジメント」だった。仕事のプレッシャーとギスギスした人間関係で、働き始めてすぐに鬱っぽくなり、あれだけ夢中だったプログラマーの仕事が、楽しくなくなってしまった。くやしかった。
そんな環境だったから、わたしと似たような同僚も多かった。
次第に「どうすれば、人はやる気になるのだろう?」「楽しく働けるようになるんだろう?」ということに関心を持ちはじめ、個人的にコミュニケーションや心理学、コーチングの勉強をはじめた。
それを職場で実践すると、紆余曲折はあったものの、自発的に勉強会をはじめる同僚が出てくるなどチームが変わり始めた。その結果、「人の成長を支援する仕事もおもしろい」と感じるようになり、プログラマーから組織作りの研修や講演を行う道へと、キャリアの舵を切ったのである。
この経験と、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念は、わたしの中で完全にシンクロした。そして、複業採用に応募。採用されるに至ったのである。
ほかの人はどのように複業をはじめたのか?
複業をはじめて4年半。最近は複業に関心を持つ人が増えて「どうやってはじめればいいんですか?」と相談される機会が増えた。
しかし、前出のように、わたしが複業をはじめたきっかけは「偶然」であり、再現性が低い。また「まずはスキルを高めてみては?」「クラウドソーシングのようなマッチングサイトで検索してみては?」といったアドバイスもできなくはないが、ありきたり過ぎて、なんとなく不親切のような気がする。
また、わたしの友人・知人には、両手の指では数えられないほど複業している人がいるが、彼らがどうやって複業をはじめたのかよく知らない。人づてなのか? それとも、ほかのきっかけなのか?
そこで、いま、複業をしている人が「どんなきっかけで」「どのように」はじめたのかを知りたいと思った。それを共有できれば、いまから「複業をはじめたい」と思っている人の役に立てるかもしれない。
そこでサイボウズ社内外で、複業している人たちに対してアンケートを取ってみることにした。
アンケートでは、「複業をはじめたきっかけ・手段」「複業の形態」「複業をする上で大切にしていること」「複業をはじめるために必要だと思うこと」などについてたずねた。
【複業をはじめたきっかけを教えてください!】
— サイボウズ式 編集部 (@cybozushiki) September 16, 2021
多様な働き方の拡がりで「複業」も特別なことではなくなってきました。一方で「どうすればできるの?」という疑問も。
サイボウズ式編集部では「複業のはじめかた」に関する記事を作成したく、アンケートを実施しています。https://t.co/8jVur1KMaK
複業をはじめたきっかけは「人とのつながり」が6割
まず、「複業をはじめたきっかけ」について。「仕事上のつながり」と「友人・知人の紹介」で約6割を占めた。
この結果から、複業をはじめるためにもっとも重要なのは、現在の「人とのつながり」を大切にすること。つまり、目の前の仕事を一生懸命にやって、「〇〇さんと、また一緒に仕事がしたいな」と思っていただくことが重要だといえるだろう。
実は、わたしはサイボウズ以外にもいくつかの仕事をしているが、その仕事をするきっかけの多くは「仕事上のつながり」か「友人・知人からの紹介」であった。
もちろん、複業をはじめたい人の中には、「製造現場で働いていて、人と接する機会がない」「社外に出ることがない」など、いまの仕事の延長上に複業をはじめるきっかけがイメージできない人もいるだろう。その場合は「マッチングサイトの利用」や「募集している企業を検索」するなどの方法をとるしかない場合もあるとは思う。
しかし、「人のつながり」ではじめる人が多いという事実は、知っておいて損はないだろう。仕事で、あるいは仕事以外でも「〇〇さんと、また一緒に□□がしたいな」と思っていただけるような関わりと周囲の人たちとしていくことが、大切だといえそうだ。
複業者の7割は「企業に所属しながら」
次に、複業の「働き方」について。
以前、サイボウズで働いて「複業には4種類ある」と痛感し、やっぱり複業はいっしょくたには語れないよねと思った話という記事を書いた。
複業の形態には
- 「個人+個人」タイプ:個人事業主やフリーランサー、小さな法人を経営している人など、個人が複数の仕事を行う
- 「個人+企業」タイプ:個人が主軸で企業にも所属する
- 「企業+個人」タイプ:企業が主軸で、空いた時間や週の何日かを、個人の範疇で複業する
- 「企業+企業」タイプ:複数の企業に所属してパラレルキャリアを築く
の4種類あるとのお話をした。
今回のアンケート結果によれば、約7割が、所属している企業の仕事がメインで、個人でも複業している「企業+個人」タイプであった。
この形であれば、いきなり会社をやめるわけではないから、収入が断たれるわけではないし、気軽にはじめられる。まずは、会社で働きながら経験を積むことで実績を残す。そうすれば、次のキャリアへ移行するきっかけにもなるだろう。
複業をする目的は「スキルアップやキャリアの幅を広げること」
つづいて、複業する目的について。
本業以外に、お金を稼ぐことが目的の「副業」と比べ、自己実現などさまざまな目的がある「複業」は、目指す方向性はさまざまだと思う。そこで、複業経験者に「複業する目的」についてたずねた。
複数の目的について、人によっては複数ある人もいると思う。だが、「もっとも大切なことは何か」を知るために、今回はあえて、選択肢を1つに絞ってたずねた。
その結果、「スキルアップやキャリアの幅を広げる」「趣味と実益を兼ねて」「仕事に対する目的意識や共感」「収入を得ること」などが上位を占めた。複業の目的は多様であることがうかがえる。
複業の目的は人によってさまざまである。だが、はじめるにあたっては、「何のために複業するのか」を、ある程度決めてからはじめるといいだろう。なぜなら、明確な目的は、行動に対する動機づけになりやすいからだ。
ここで上がった目的を参考にしながら、「わたしは、何のために複業をしたいのかな?」と、自分自身に問いかけてみるといいだろう。
複業にもっとも必要なのは「時間とスケジュールの管理」
次に、複業をはじめる上でもっとも必要なことについて。
「スキル」「お金の管理」「人柄」など、複数回答でたずねたところ、多い順に「時間・スケジュールを管理する能力」「スキル」「自立心」があげられた。これには、わたしも同意するところである。
たとえばわたしの場合、木・金がサイボウズの稼働日だが、ときに、ほかの業務の打ち合わせが、サイボウズの稼働日に入ることがよくある。その場合、周囲に事情を説明し、スケジュールを調整しなければならない。
また、スケジューラーに入れる情報も、ほかの人に見られてもいいもの、悪いものがあり、1つのスケジューラーで管理しきれないケースがよくある。そこで、複数のスケジューラーを使っているが、時間とスケジュールの管理はとても難しい。
これは、複業を「はじめる前」というよりも、「はじめてから」の問題ともいえるが、複業をはじめるなら、「スケジュール管理や自立心が求められるんだな」ということを、知っておいて損はないだろう。
実践者からの「複業をはじめる人へのアドバイス」
さて、ここまで「複業のはじめかた」について、実際に行っている人の声をもとにみてきたが、あなたは何を感じただろうか。
最後に、現在複業をしている人から、これからはじめるあなたへ、アドバイスをフリーで書いていただいた。多くの示唆にとんだ内容のため、そのいくつかを紹介しよう。
- 複業で抜ける場合など、周囲が疑心暗鬼にならないように共有を意識してます。
- やってみてわかることが多いです。自分は結果として、個人事業主としての仕事の進め方、案件の獲得の仕方、確定申告を含むお金回り、法人化の検討、その他、複業をすることで学べたことが多いです。タイム・メンタル・アンガーマネジメントは必須かなと思いますので、自分を鍛えることにもつながりました。
- 3年ほど本格的に複業をやってみて、お金以外の価値を感じることが多くなりました。
- 体力と時間のバランスが一番大事だと思います。無理しないこと。
- 興味があれば、初めてみて、続けられそうだと感じたら続けてみるくらいの気持ちからスタートするのがいいと感じてます。
- 労働集約的でない複業で収入を得るには、一定水準以上のスキルが必要です。まず本業で換金化できるスキルを身につけるのが一番の近道なのではと思います。
- 複業で仕事を請けてくれそうな人というイメージを周囲に持たせておけば、きっかけがあれば話は向こうから来ると思います。
- 他社の仕事の進め方やコミュニケーションがかなり深いところまで見れるので、確実に視野は広がります。
- お金以外の目的意識(大義のようなもの)を持っていることが継続の糧になると思います。
- 複業を通して様々な経験、人との出会いが広がります!自分の市場価値も知ることのできる良い機会ですので、企業に勤めている方にはぜひオススメしたいです!
- 特段人脈を広げようとしたり、仕事が欲しいと言ったことはないですが、身近なところでお互い「この人は信頼できる」と思える関係だったことが仕事の依頼につながったと思います。
- 時間の切り売りはしない方がいい。報酬は時間に対してではなく、生み出す付加価値に対していただくようにしたい。
- 本業もあって上手くいかないこともあるとは思いますが、自分が楽しむことが一番大切だと思います。楽しいことは続けられるしどんどん工夫もするしパフォーマンスも上がるので、自分の心を満たすひとつを取り入れたら良いなと思います。
複業は未来の可能性を広げる選択肢1つ
今回、実際に複業している方々に「複業のはじめかた」について伺ってみた。もっとも予想と違っていたのは、「複業をはじめたきっかけ」だ。
インターネットで「副業 マッチングサイト」といったキーワードで検索すると、非常に多くのマッチングサイトがあることがわかる。だが、今回伺った多くの人が複業をはじめたきっかけは「人とのつながり」だった。改めて「日ごろの仕事をちゃんとすることが、もっとも大切なんだな」と思った。
また、改めて認識したのは、複業をしている多くの人が「お金以外を目的にしている」ことだった。
もちろん、仕事をする以上、金銭的な対価はとても大切だ。労働の搾取は、絶対にあってはならない。だが、多くの人が、金銭的な対価ではない「何か」を期待して、複業を望んでいるなら、受け入れる企業側も、複業者が「何を望んでいるのか」を把握しておくと、マッチングのミスを防ぐことができ、想いを持ったすばらしい人と出会えるだろう。
わたしはこれまで4年半、複業をしてきて、よかった面もあれば、大変だった面もある。すべての人に「複業はいいよ。最高だよ」のように、勧めようとは思わない。やりたい人はやればいいし、やりたくない人はやらなくていいスタンスだ。
だが、実践してきた一人として間違いなくいえるのは、「やってみて、損はなかった」ことだ。働き方が多様になるにつれて、わたし自身、今後のキャリアについて考える機会が増えたが、複業はキャリアの幅を広げる1つであることは間違いない。
あなたは、複業に何を求めるだろうか? そして、何からはじめるのだろうか? この記事が、次のステップに進む何かしらのきっかけになれば幸いだ。
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。