会社の「言っていること」と「やっていること」がズレて見える
仕事をしていると、「最近、会社変わったな」「以前のほうがよかったな」と思うことがあります。
ひょっとしたらそれは、「上司が変わった」「会社の方針が変わった」といった環境の変化が原因なのかもしれません。ましてや、近年はAIをはじめ社会の変化もすごく速い。「過去といまのズレ」「理想と現実のズレ」を感じやすい状況です。
多少のズレなら問題にはならないのかもしれません。けれども、そのズレが大きくなればなるほど、仕事のモチベーションに影響を与えることも。
そこで、この記事では、社内の環境変化により、最近「理想と現実のモヤモヤ」を感じているサイボウズ社員が、「なぜ、理想と現実がズレるのか?」「ズレを感じたとき、個人に何ができるのか?」を考えます。
理念に共感していなくても、仕事はできる
わたしはこれまで、いくつかの会社を経験してきました。
最初に勤めた会社は自動車メーカーです。退職して25年ほどになりますが、わたしはその会社の理念をいまでも暗唱できます。なぜか。その理由は「丸暗記させられた」からです。ぶっちゃけ、覚えるのは面倒くさかった。でも、テストがあったんですよね。仕方がないので丸暗記しました。
ただ、言葉として暗記はしたものの、20代だったわたしのこころには何も響いてはいませんでした。もちろん、言葉の意味は理解できます。でも「この理念は本当に大事だなぁ」「心底共感できるなぁ」とまでは、思えなかったのです。
その後転職し、IT企業を2社経験しました。その2社の理念は、残念なことにひとことも思い出せません。
理念なんか意識になくても仕事はできる。社員としては、あまりほめられたことではないかもしれないけれど。理念が仕事のモチベーションに与える影響など、考えたことは一度もありませんでした。サイボウズに入社するまでは。
サイボウズに入社したのは「理念に100%共感した」から
その後、さまざまな紆余曲折があり、起業。サイボウズには2017年、複業でかかわるようになりました。
「サイボウズで働きたい」と思った大きなきっかけのひとつは、「チームワークあふれる社会を創る」という理念に100%共感したから。なぜ、それほど強く共感したのか。それは、2社目のIT企業での経験にあります。
実はわたし、上司からパワハラ・モラハラのようなかかわり方をされてうつっぽくなったことがあります。職場の雰囲気は悪いし、何かミスすると詰められる。そんな毎日を過ごしていたら、大好きだったエンジニアの仕事が、楽しくなくなってしまいました。このような経験があったことから、組織がモチベーションに与える影響を痛感していたのです。
ある日、サイボウズが複業社員を募集しているリリース(過去の情報です)が目に留まりました。そこに書かれていた「チームワークあふれる社会を創る」という理念を目にしたとき、「わ、わかる!」と激しく共感しました。そこで、すぐさま複業採用に応募。その結果、サイボウズで働くことになりました。
サイボウズに入社して9年になりますが、「チームワークあふれる社会を創る」という理念には、いまも変わらず共感しています。
最近ふと思う「そもそもサイボウズは、チームワークにあふれているのか?」
でも最近、ふと、思うことがあります。
「そもそも、いまのサイボウズは、チームワークあふれる会社なのだろうか?」
誤解しないでください。いまのサイボウズが「チームワークがよくない」と言いたいわけではありません。
ただ事実として、数年前と比べると、社内ではさまざまな変化が起こっています。
たとえば、わたしが入社したころ500人ほどだった社員数は、現在1000人を超えています。そうです、大企業です。以前は、それほど意識しなくても見えていた同僚の顔が、最近は見えづらくなりました。ほかのチームが何をやっているのかも、よくわからなくなってきています。
グループウェア上で共有されている話題も、以前はもっと雑多で、思ったことは何でも書き込むような自由な雰囲気がありました。時には社内炎上するような事案もありました。
たとえば、「イヤホン事件」。あれは、わたしがサイボウズに入社した直後だったと記憶しています。新入社員が研修時にイヤホンをして作業をしていたとき、ある先輩社員が「研修中にイヤホンなんてありえない」とグループウェアに書き込んだ事件です。その書き込みに対して、新入社員に近い若い社員の一部が反発。ちょっとした炎上騒ぎになりました。
こうした事件はその後、「心理的安全性が担保されているからこそ、自発的な声が上がる」ポジティブな事例として、社内外で長く語られてきました。
しかし、この話はもう10年近く前の話です。近年、こうした炎上事件はあまり起きていません。いい意味で言えば「社内の治安がよくなった」。一方で、見方を変えると「以前よりも本音を表現しにくくなった?」と見ることもできます。
また、サイボウズと言えば、多様性を示す言葉として「100人いれば100通りの働き方」というメッセージが代名詞のひとつでした。
しかし、近年「個人の希望が何でも通る」という誤解やズレが広がったことから、このメッセージを使うことをやめました。最近は、会社が目指す方向性と社員の希望をマッチングさせる「100人100通りのマッチング」というメッセージに変わっています。
この状況は、いい意味で言えば、「以前よりも体系化・組織化された」。一方で、「どこまで、個人の希望を言ってもいいのだろうか?」といった遠慮にもつながりそうです。
さらに、近年サイボウズはプロバスケットボールチームの経営やアリーナの建設をはじめ、事業の多角化が進んでいます。その目的は「スポーツを通じた地域活性化」「まちづくりへの貢献」「地域DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」です。
この状況は、いい意味で言えば、「チームワークあふれる"会社"を創る」状況から、いよいよ「チームワークあふれる"社会"を創る」状況へのシフト。見方を変えると「IT企業が異分野にかかわりだした」。
こうした状況に、個人的には「サイボウズが大切にしているチームワークの考え方が社会に広がる取り組みだ」と頭の中では理解しているものの、「この事業は今後、どこへ向かうのだろう?」「みんな同じ方向を向いているのだろうか?」と、なんとなく不安を感じているもう一人の自分もいます。「頭の理解」と「体の理解」が一致していない、というか。
このように、明確に「コレ!」と言葉にするのは難しいのだけれど、以前のサイボウズを知っているからこそ感じる「現在のサイボウズとの違い」や、「今後、どうなっていくんだろう?」といった、ぼんやりとした不安感や不透明感が、「そもそも、いまのサイボウズは、チームワークにあふれているのだろうか?」「言っていることと、やっていることは合っているのだろうか?」といった、「理想と現実のズレ」として、わたしに感じさせるのかもしれません。
なぜ、理想と現実はズレるのか?
この「理想と現実のズレ」について考えていたとき、思い出したのが、アメリカの組織心理学者、クリス・アージリスの「行為の理論」です。
アージリスは、人や組織が持つ行動の理論を、2つに分けて考えました。1つは「信奉理論」。「わたしたちは、こう行動する」と、口で語っている理論です。もう1つは「使用理論」。実際の行動から読み取れる、本当にわたしたちの行動を動かしている理論です。
ひとことで言えば、「言っていること」と「やっていること」の違いです。
たとえば、「困ったことがあったら、いつでも相談してね」と言っている上司が、実際に相談に行くと、いそがしそうにため息をつく。このとき、「いつでも相談してね」が言っていること(信奉理論)で、ため息が表しているのが、やっていること(使用理論)です。
アージリスによれば、この2つがズレているのは、決して珍しいことではないといいます。しかも、そのズレは、他人や組織の中には見えても、自分の中にあるズレには、なかなか気づきにくいのだそうです。たしかに、ため息をついている上司本人は、自分が「相談しにくい空気」をつくっているとは、思っていないのかもしれません。
サイボウズに当てはめてみると、「チームワークあふれる社会を創る」は、会社として「言っていること」にあたります。一方で、社内炎上が減ったことや、本音を表現しにくくなったように感じることは、組織の中で気づきにくい、でも、実際に起こっている「やっていること」の変化、と言えるかもしれません。
振り返ってみると、自動車メーカー時代のわたしが、理念と現実のズレにまったく悩まなかったのは、その理念が、わたし自身にとって「本気で大切だと思えること」になっていなかったからなのだと思います。自分ごとになっていなければ、言っていることとやっていることがズレていても、痛みは感じません。
いまモヤモヤしているのは、それだけサイボウズの理念に、こころから共感しているからこそ。それだけにわたしは、ちょっとしたズレが気になるのかもしれません。
モヤモヤを感じた個人に、何ができるのか?
ただ……こころから共感して入社した会社の理念と現実に、なんとなくズレを感じているのは、個人的にはあまり好きじゃありません。できれば、このズレは少ないほうがいい。
だけど、こうしたモヤモヤをわたし一人で抱えていても、正直、何も変わらない気がします。わたしには、会社を大きく変えるような権限もありませんし。
でも、このままだと、ちょっと気持ちが悪い。
「じゃあ、個人に何ができるんだろう?」
そう考えると、あまり大したことはできそうにありません。
でも、とりあえず何かをやってみたい。そこでやってみたのが、このモヤモヤを、サイボウズ式編集部のメンバーに話してみることでした。「実は最近、ちょっとモヤモヤしていて」「そもそもサイボウズは、チームワークあふれる会社なのだろうか?」と。
すると、意外にも「わかる」という声が返ってきました。
編集部メンバーの中には、「グループウェア上に似たような声がありますよ」と教えてくれる人もいました。社員の中には、わたしと似たような感覚を抱いている人もいるようでした。その意見を読んで、「こういう感覚を抱いているのは、自分だけじゃないんだ」とわかり、少しホッとしました。
ほかには、「竹内さんはどんな感情を抱いているんですか?」「竹内さんにとって、どういった感じが理想なのですか?」のような問いかけをしてくれたメンバーもいました。
「わたしにとって、どういった感じが理想なんだろう」――そうだなぁ。過度に縛られるのはいやだけど、自分の才能や強みを生かして、自分らしく働けるのが一番いいんだろうな。だからといって、何でも「自由がいい」っていうのも、少し違うかも。会社というのは、同じ理想や目的を持っている人たちが集っているのが、一番強いと思うから。
ここまで言葉にしてみて、気づきました。「そうか、こうやって考えることが大切なのかな?」って。また、編集部のメンバーと話し合ってみて、「そういえば最近、チームワークについてあまり議論していなかった」ことにも気づきました。今回の話し合いがいい機会にもなりました。
先ほどお話したアージリスは、「学習には2つの種類がある」と言っています。1つは「シングルループ学習」。既存の枠組みや価値観、目標はそのままにして、行動の結果だけを修正する学び方です。もう1つは「ダブルループ学習」。行動の土台となっている前提や価値観そのものを、「そもそも、これでいいのか?」と問い直す学び方です。
ひょっとしたら、この「そもそも」を考えること自体がダブルループ学習であり、個人にとっても、そして、組織にとっても、とても大切なことなのかもしれません。
会社全体を変えることは、わたしたち一人ひとりの力ではできません。けれども、「自分はそもそも何のために、この会社で働いているのか」「なぜ、いまこの環境にいるのか」と、自分なりの理由を見つけることは、少なくとも個人でもできるはずです。そして、そうした一人ひとりの問い直しが積み重なることで、組織は強くなっていくのではないかと思います。
過去の自分に「間違ってなかったよ」と言えるように
以前、「おじさんと多様性」について記事を書いたことがあります。この記事で、わたしは「会社さん」という人はいない、と書きました。会社は、個人の集まりを便宜上「会社」と呼んでいるだけです。
「会社、以前と変わったな」と感じるとき、わたしたちはつい「会社さん」を主語にしてしまいがちです。けれど、そこにいるのは「わたし」と「あなた」。チームワークを語る場が減ったのだとしたら、それを取り戻せるのも、わたしたち一人ひとりなのかもしれません。
仕事をしていると、大変なこと、思い通りにいかないことがたくさんありますよね。モヤモヤすることもある。「わたしは、この環境にいていいのかな」「もっと活躍できる場所が、ほかにあるんじゃないか」と、つい、その目が社外に向いてしまうことも、ないわけではありません。
それでも、いまの環境を選んだのは、過去の自分です。だからこそ、いまを生きる自分としては、過去の自分に「君の選択は、間違ってなかったよ」と言えるようでありたい。
少し先の未来の自分が「この選択、間違ってなかったな」と思えるような、そんながんばりができたらいいなと思います。
わたし自身も、まだ試行錯誤の途中です。これからも、自分や社内の「モヤモヤ」をきっかけに、「そもそも」を問い直す試みを、少しずつ発信していけたらと思っています。
企画・執筆・編集:竹内義晴(サイボウズ)
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。