サイボウズ副社長、山田理の書籍『最軽量のマネジメント』が11月7日、サイボウズ式ブックスより刊行されました。2018年秋から進めてきた、新しいマネジメントを考える本プロジェクトがついに1冊の本に……!
マネジャーとして現場を率いる立場にある人は「こういうマネジメントをすべき」「こんなリーダーが理想」「マネジャーはチームで最も有能でなければならない」など、世の中でいう“理想のマネジャー像”を持っていることが多いのではないでしょうか。
しかし、20数年前にサイボウズに転職し、一社員としてジョインしてから、副社長として、管理部門の責任者として、そして一人のマネジャーとして、「100人100通りの働き方」を実現するまで動いてきた山田自身が、唯一自信を持って言えるのは「マネジメントって、ホンマに難しい」だといいます。
本書の発売に伴い、山田と本書を発行・編集したライツ社の代表大塚啓志郎さんが対談。いま、本書を出した理由やそこに込めた思いについて語りました。
風土が変わらないと、マネジメントも変わらない
山田
マネジャーって責任感が強くて、真面目な人が多いんですよね。会社に愛着があって、「うちの会社、ちょっとブラックやねん(笑)」とか言いながら、なんとかしないとと思い悩んで、自分がめちゃくちゃ頑張る、みたいな人もいる。
大塚
僕も悩んだことがあります。ライツ社を立ち上げる前に働いていた出版社は、僕が入社した頃は社員数30人くらいだったんですけど、3〜4年で100人くらいに増えました。
でも、僕より上の先輩がどっと退職した時期があったんです。誰かがマネジャー職をしないといけないから、20代後半の若さで部長になって、経営会議に出るようになった頃、悩んでましたねぇ。
マネジャーって、どうして悩んでしまうんでしょう。
大塚啓志郎(おおつか・けいしろう)さん。編集者・ライツ社代表。1986年兵庫生まれ。大学を卒業後、京都の出版社で編集長を務めたあと30歳で独立。2016年9月、故郷の明石市でライツ社を創業。「write,right,light 書く力で、まっすぐに、照らす」を合言葉に出版活動を展開。編集した近刊は、ヨシダナギ『HEROES』、中村朱美『売上を、減らそう。』など
山田
時代の変化と共に組織の在り方も変わっているのに、マネジャーの役割は変わってないからじゃないかな。ただ、今までのやり方はなんかおかしいなと、みんな心のどこかで思ってる。
でも、その代わりになる新しいやり方を考えるところまではいってない。というのは、「昭和のやり方」で上手くいった高度成長期の記憶があるし、今でも昭和のやり方でそれなりに上手くいくから。
大塚
とはいえ、世の中や働き方自体は変わってきていますよね。
山田
だから、昔は上手くいっていたやり方を今も続けることで起きる不幸も徐々に見えてきていますよね。
大塚
どうすれば、新しいやり方をする人が出てくると思いますか。
山田
例えば、失業率がとても高くなったら、今までのやり方はおかしかったのかも……と、新しいやり方を考えるようになるかもしれない。
大塚
サイボウズが「やり方を変えないと」と思い立って、動き始めたのは10数年前ですよね。どうして早くからそこに気づけたのでしょうか。
山田
当時はまだ小さな会社だったからだと思います。設立2年半で上場し、組織としてどんどん大きくなる中で、2005年には離職率が28%にまで膨れ上がって。
成果至上主義に走った会社のマネジメントは完全に崩壊していて、「このやり方、違うな。続けてたらマズいな」と実感できたんだと思います。
でも、「このやり方じゃダメだな」って気づきにくい社会の仕組みがある。これは今も変わらないんじゃないかな。
山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る
大塚
サイボウズは、会社が変わるには「制度・ツール・風土の3つが揃わないとダメ」と言ってますよね。だから僕は本書の編集をさせていただく前、サイボウズはマネジメントのハウツーや制度をとてもたくさん整えているんだろうなと想像していたんですよ。
でも、本にメインとして書かれてあるのは、「ザツダン」と「情報の徹底公開」と「説明責任と質問責任」という「風土」に関する3つだけで、実際はとてもシンプルだと感じました。
山田
制度は誰でも作れるけど、風土がそれに合っていないと制度は定着しないし、良いものにもならないんです。その視点を本書で伝えたいなあと。
マネジャーがすべてを背負う必要なんてない
兵庫県にいらっしゃる大塚さんとの対談は、テレビ会議システムを使って行われました
大塚
養命酒酒造が2018年に行った「
東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査」によると、30代中間管理職の40%以上が「しんどくなった」と感じているそうです。
働き方改革が始まって、人々の働き方も変わったけど、マネジャーへの理想像は変わってない。それに気づいてもらう本になっていると思います。
山田
確かにね。辛くなっているマネジャーやこれからマネジャーになるけど不安を抱えている人たちに向けて書き始めた本で、「あなたたちだけのせいじゃないよ」「あなたがすべて背負わなくていいよ」というメッセージを伝える意図がありました。
大塚
山田さんの言葉でとくに印象的なのは、「諦める」「やめる」というものです。ミレニアル世代は受け入れられても、上の世代は抵抗がある人も多いんじゃないかな、って。
山田
マネジメントを語るとき、「諦める」なんて言葉を使うのは僕くらいじゃないかな。例えば、僕は営業や開発、マーケティングの知識やスキルをつけるのを諦めました。
それぞれ専門としてやっている彼らに任せて、代わりにマネジャーとして誰がどんなことを話しているのか、誰のどんなところが信頼できるのか、逆に信頼できないのかを知る方が大事だなと思ったからです。
そのために、とにかくたくさん「ザツダン(※)」をしていた時期があります。
(*)サイボウズで行っている1on1であり、「雑談」として何でも話していい時間。制度やルールとして決まっているものではなく、多くのマネジャーが自然発生的に行っている。目的はコミュニケーションの量を増やし、メンバーの状況を知ること。
大塚
山田
諦めると聞くと、ネガティブな印象を持つかもしれないけど、極端な話、ひとつの理想を選択したら100の理想を諦めることになる。
でも、諦めるとかやめるっていうのは、結果的に新しいチャンスを生むことになると思うんです。
大塚
何かをしない代わりに、別の何かをすることになるから。
山田
肩肘張って重いものを背負うと、「良く見せたい」という気持ちが働いて、頑張らないといけなくなります。でも、誰でも苦手なことや弱いことがあるのは当たり前。
マネジャーは「こんなの無理です」「手伝ってほしい」と周りに言えばいいんです。
大塚
そういう姿勢こそが、最軽量のマネジメントにつながるのかな、と思います。
最軽量のマネジメントを実施することでみんなが自立して、最軽量のマネジメントはいつか最軽量のチームになっていくのかなと思いました。
山田
最軽量のチームって、面白い表現ですね。でも、そうなのかもしれないなと思います。「最軽量のチーム」使おう(笑)。
大塚
どうぞどうぞ(笑)。
マネジャーを「肩の荷が下りた」状態にしたい
山田
本を書きながら、『最軽量のマネジメント』を読んでくれた人は、その後どんな行動を起こすのかなぁと考えていました。
若い人が「自分でもやってみよう」と、アクションを起こしてくれたらうれしいです。一番うれしいのは「肩の荷が下りた」と言ってくれることかな。
マネジャーとして辛さを感じている40%の人たちは、2冊買って1冊を上司に渡したりするのかな。それを読んだ上司が「新しい時代のマネジャーってこんな感じなんだな。応援したいな」と感じてくれるのもうれしいですよね。
大塚
それは最高ですね。
山田
僕はセミナーで自分より世代が上のおじさんたち相手に話す機会が多いんです。
おじさんたちははじめのうちは斜に構えて聞いてるんですけど、どんどん前のめりになるんですね。終了後「いい話だった!」と言われることもあります。
そんなとき、おじさんたちも悩んでいて、でもどうすればいいかわからないんだな、と感じるんですよ。
大塚
おじさんたちの肩の荷も下ろせるんじゃないでしょうか。
山田
「俺が今更変わるのはハードルが高い」と思っているおじさんも、若い人がやることを理解しようとか、協力しようかなとか、本を読んで行動につなげてくれたらいいですよね。
僕の理想は、若いマネジャーが最軽量のマネジメントをし、チームのメンバーは一緒に支えて役割分担をする。そして、マネジャーの上にいる人たちも共感によって、世代を問わず一緒に時代を作っていく流れが生まれることなんです。
大塚
山田さんは10年以上も前に自社で働き方改革をやったわけじゃないですか。上と下に挟まれたしんどい中間管理職時代を経て、マネジャーの仕事を疑って「大衆化」していかないといけない、と気づいて。
普通の企業はそれをこれから体験するんですよね。10年前、周りからどんな反応がありましたか。
山田
当時、「成果重視型」の働き方と「家庭やプライベートを重視する」働き方の、ふたつの制度を作って選べるようにしたんですけど、「大変になるじゃないか!」と一番反発したのがマネジャーでした。
現場が成長しないといけないという大前提もあるし、成長したいという思いもある。数字を上げながらそれもやれってどうなの? と言われました。
一方で、現場社員は制度に賛成しているから、マネジャーが悪者になっていく構図がありました。
大塚
上とも下とも溝ができて……。
山田
働き方を変えた人がいると、やってもらう予定だった仕事を渡せなくなって、混乱することがあります。希望する働き方ができないから辞めたい、という人も現れる。
でも、時短にしてフレキシブルに働く人は、よりがんばるようになって、アウトプットの質と量が以前と変わらない。そんなプラスの展開も見られるようになりました。
大塚
その理由は何だと思いますか。
山田
コミュニケーションがしやすくなったから。結果、今までだったら辞めていた人が辞めなくなって、今まで採用できなかったタイプの人が採用できるようになったんです。
マネジャーの言葉もどんどん変わっていきましたね。
大塚
大きな変化ですね。
山田
マネジャーに理解してもらい、結果を出すのに時間がかかりましたが、10年ほど続けながら成長していきました。
多くの人がフレキシブルに働くのをマネジメントするのは大変なんです。組織が大きくなればなるほど難しい。
大塚
マネジャーをラクにする方法も本書に書かれていますね。
山田
おじさん上司がマネジャーを理解して、サポートしていかないといけないなと思います。周りが「今までマネジャーに甘えてたよね」「マネジャーの仕事を分担しないと」と動かないと、マネジャーの肩の荷は降りない。
昭和世代もミレニアル世代もこれからの令和世代も、誰もが自分の経験を活かして上手くいったところ、上手くいかなかったところ、でもこうありたい、こうなるに違いないという理想を掲げて、チームワークを作ってほしいなぁ。
大塚
世代間の断絶を煽るのではなく、橋渡しをする感じですね。大企業でも変われる可能性はありますか。
山田
ありますね。たとえ経営者自身が変わらなかったとしても、「
ONE JAPAN(※)」みたいに優秀な若い人たちが横のつながりを持って組織を動かしていけば、大企業や世の中が一気に変わる可能性はあると僕は信じてます。
(*)大企業の若手有志団体による実践共同体。「大企業を変えること」を選んだ若手社員一人ひとりがつながり、希望を見出し、行動している。大企業からチャレンジする空気を作り出し、組織を活性化し、社会をより良くするための活動を行う。パナソニックや三越伊勢丹ホールディングス、東急グループなど、多種多様な大企業が参加。
文:池田園子/撮影:有佐和也、高橋団/企画編集:小原弓佳